「中1ギャップ」を克服する 心のアンテナを張り続け

お子さまが小学校を卒業し中学生になると、心身の成長をさまざまな場面で実感することが増え、保護者のかたもうれしく感じることでしょう。しかし、中学生になった子どもが小学生の時とは違う環境になじめず、学校に行くのがつらくなったり、体調を崩したりしてしまうことがあります。心身の成長と環境の変化がどこかうまく合わず、そのミスマッチが「中1」あたりで生じるさまざまな問題の背景にあるのではないかという視点から「中1ギャップ」と呼ばれています。この「中1ギャップ」への保護者の対応について、法政大学文学部心理学科教授で、子どもの発達心理が専門の渡辺弥生先生に教えていただきました。

■「中1ギャップ」とは何か?

小学校中~高学年になると、第2次性徴期(ホルモンの変化)が始まり、男子も女子も大人に近い体つきになってくるとともに、初潮や声変わりなど、男女で異なる変化も見られます。保護者のかたは驚くとともに、とても喜ばしい気持ちになることでしょう。ただ、見た目は成長しているものの、心の面では保護者のかたが思っているほど成長していないのが事実。むしろ、自分ではコントロールできない変化に心が追い付かず、とまどってしまいます。そのうえ、中学校に入学してから、定期テストや教科ごとに変わる先生、「先輩後輩」という今までにない人間関係を経験するなど、新しい環境に溶け込めないことがあります。このような急激な環境の変化と思春期が重なってしまうことで、心身ともに不安定な状態になり、学校に行くのがつらくなったり、体調を崩してしまったりするのではないかと考えられつつあります。

このような子どもの心身の発達時期が、6年制の小学校や3年制の中学校といった現代の学校区分や学校制度に、必ずしも適合していないことからから生じているのではないかというのが「中1ギャップ」の考え方です。

■手がかからなくなると思われがちな中学生ほど、全力投球の関わりを

同時に、家庭環境も実は変化してしまいがちです。中学生になると、子どもも自分一人でできることが増え、家庭で過ごすよりも、友人同士で過ごす時間が多くなります。そのため、保護者としても子育てから解放された気分になり、その気はなくとも「もう中学生なんだから、一人でできるでしょう」とついつい突き放すような態度をとりがちです。しかし、一人でできる行動が増えたとしても、精神的な問題に関しては、まだまだ大人の手を借りなければ解決できないのが、中学生という時期です。

たとえば、小学生までは「友達とはみんな仲よくしよう」とシンプルに考えていた友人関係ですが、成長するにつれて、視野も広がり、過去や未来など時間的にも見通せるようになります。そのため、「ここでケンカをしてしまったら1週間は口をきいてもらえないかも」「○○さんは私のことをよく思っていないらしい」などと、考えることが複雑になります。そして、悩むことも増えてくるのです。急に黙り込んだり、気持ちが変わりやすかったりする背景には、いろいろなことで胸を痛めていることが多いものです。そのため、今まで小手先でほめたり叱ったりしていたことも通じなくなります。保護者自身がまず「そういう時は苦しいよね」とお子さまの気持ちに寄り添い、「自分だったらどうするか?」「そういえば、自分も昔は同じようなことで悩んでいたな」とじっくり気持ちを聞いて、一緒に考えてあげることが求められるのです。

ただ、この時期のお子さまは、家庭では自分からあまり悩みを話したがらないことも多いでしょう。大切なのは、フィジカル(体)の距離は離れていても、メンタル(心)のアンテナは張り続けてほしいということ。お子さまの機嫌がよい時に、「さっきはどうしたの?」「困った時は力になるからね」など、「いつも見守っているよ」というメッセージを送り続けてください。それが、いざという時に子どもが大人に相談しやすいような環境づくりにもなるのです。

プロフィール


渡辺弥生

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学が専門で、子どもの社会性や感情の発達などについて研究し、対人関係のトラブルなどを予防する実践を学校で実施。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?—乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『子どもに大切なことが伝わる親の言い方』(フォレスト出版)など多数。

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