「うちの子、ゲーム依存?」と感じた保護者が最初にできること【体験談&専門家解説】

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「うちの子、家ではゲームばかりで……これってゲーム依存?」
何時間もゲームをしているお子さまを見て、不安を感じたことがある保護者のかたも多いのではないでしょうか?
ただ、「どこからがゲーム依存に該当するのか」「どのくらいの時間なら許容範囲なのか、それともキッパリやめさせたほうがよいのか」など、お子さまに働きかけるにあたって迷うことも多いですね。
そこで、ゲーム・インターネット依存の研究に取り組む東京大学社会科学研究所の大野志郎先生に、ゲーム依存の定義や判断のめやす、予防のためにできることなどをお話しいただきました。
学年別のゲーム時間平均値や先輩保護者の体験談などもご紹介しますので、お子さまへの接し方に悩んだ時に参考にしていただければ幸いです。

大野志郎先生

東京大学特任准教授。東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所による共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクトに参画し、「教育と情報行動」などのテーマで研究活動に取り組む。専門分野は社会情報学・教育心理学。著書に『逃避型ネット依存の社会心理』(勁草書房)など。
https://researchmap.jp/ohnoshiroh

この記事のポイント

「ゲームしすぎかも?」と悩んだ経験がある保護者は67%

まずは、小・中・高校生のお子さまがいる保護者のかた815名にご協力いただいたアンケート結果※1をご紹介します。
「お子さまの様子を見て、『ゲームしすぎかも?』と心配に思ったことはありますか?」という質問に対して、「心配に思ったことがある」と回答した人は全体の約67%に上りました。
自宅にいると、我が子の状況しかわからないので不安になりやすいですが、多くのご家庭で似た状況だと推測できます。

小・中・高校生のゲームの平均時間は?

ほかの家庭のお子さまはどれくらいゲームをしているのか、も気になる点でしょう。
「お子さまは1日にどのくらいゲームをしますか?」という質問も投げかけてみました。

「1時間以上2時間未満」という声が全体の約27%、「30分以上1時間未満」が約25%、「30分未満」が約21%で、30分から2時間くらいゲームで遊ぶお子さまが多いといえます。
一方、「2時間以上3時間未満」「3時間以上4時間未満」「4時間以上」と回答した人も合計で約14%と少なからずみられました。

下校してから就寝までの時間は限られているので、たとえばお子さまが2時間近くゲームをしていると「ゲームしすぎ」と感じられるかもしれません。
ただ、この調査結果からは、1~2時間ゲームをするお子さまは比較的多いことがわかります。

※1 2023年12月にベネッセ「まなびの手帳」アプリで行った「保護者のかた向けアンケート」(815人回答)に寄せられた回答をもとに作成。

そもそも、ゲーム依存の定義や判断基準は?

お子さまを見て「ゲームしすぎ」と思っても、ただ遊ぶ時間が長いだけなのか、ゲーム依存の傾向があるのかは、判断しにくいですよね。

「現在はゲーム依存かどうかを判断するにあたって「DSM-5」と「ICD-11」という2つの診断基準が主に用いられています。2つの診断基準に共通する重要な要素が、《主要性》(ゲームが生活の主要な部分を占めている)と《統制不能》(自分でコントロールできない)です。この2つの要素が強くみられるなら、ゲーム障害やゲーム依存のリスクが高まっている状態、と考えるとわかりやすいでしょう」(大野先生)

「DSM-5」と「ICD-11」について詳しく解説すると、「DSM-5」は、2013年にアメリカ精神医学会が発表した精神障害の診断に関するマニュアルに、インターネットゲーム行動症のチェックリスト案が掲載されています。
9項目のうち5つが1年間でみられた場合、依存の疑いが強いと考えられます。

また「ICD-11」は、2018年にWHO(世界保健機関)が発表した国際疾病分類で、ゲーム障害およびオンラインゲーム障害についての記述があります。
3項目すべての行動が1年以上(重篤な場合、期間は短くなります)継続または反復してみられれば、ゲーム障害の可能性が疑われるということです。

オンラインゲーム版:主にオンラインで行われるゲームの障害は、インターネット上で行われる永続的または反復的なゲーム行動(「デジタルゲーム」または「ビデオゲーム」)のパターンによって特徴付けられる

1)ゲームに対する制御の障害(例えば、頻度、強度、継続時間、結果、状況)

2)他の生活上の利益および日常の活動よりも、ゲームを優先する

3)否定的な結果が生じているにもかかわらず、ゲームを継続または増加させる。行動パターンは、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的または他の重要な機能領域において、重大な障害をもたらすほど強い。ゲームの振る舞いのパターンは、連続的、または一時的かつ反復的であり得る

出典:ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics

ただし、「診断基準に当てはまる=ゲーム依存」というわけではなく、ほかの疾患や普段の生活などさまざまな要素を考慮したうえで医療機関が診断を行います。

ゲームのよい側面を実感する子どもも多い

お子さまのゲーム時間が長いと、「勉強時間も減るし、視力低下も気になるし、やめてほしい」と思ってしまう保護者のかたも多いかもしれません。
ただ、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の共同研究の結果※2からは、お子さま自身はゲームがもたらすポジティブな影響を実感していることがわかります。

「するのが楽しい」「いい気分転換になる」という意見が多いのは予想しやすいところですが、注目したいのは「いろいろなことが学べる」と回答したお子さまも見られること。

大野先生も「他人とのコミュニケーションが学べる」「いろいろな知識が身に付く」といった効果は一定程度あると言います。

大野先生も、ゲームがよい影響をもたらす側面もあると説明します。
「たとえば近年流行しているeスポーツ(競技として行なうデジタルゲーム)に関する調査を行なうと、『親しい友人が増える』『自分や他人を認められるようになる』といった好影響もみられます」

ただし、ゲームからよい影響を得るには「どう取り組むか」も重要とのこと。
「eスポーツもリアルのスポーツと同じように、健康への配慮や対戦相手への敬意を持つなどスポーツマンシップをもって臨むとよい影響を得られやすい傾向があります。つまり、お子さまが『どのようにゲームをするか』も重要と考えられるのです。放任するのではなく、ゲームを通じて社会性や自己コントロール力を養うよう、指導する機会にできればよいと思います」 (大野先生)

※2 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どものICT利用に関する調査2023」より

「ゲームしすぎかも」と思った時に、保護者ができることは?

ゲームには良い側面があるとお伝えしましたが、とはいえ「やっぱりゲームをしすぎている気がして心配」というかたもいらっしゃるでしょう。
お子さまが少々ゲームにのめり込んでいても、保護者のかたが適切に働きかけることで、ほどよい楽しみ方ができるよう導くことは可能です。
そのための具体的なヒントをお伝えするので、できるところから試してみてください。

1.子どものゲーム・インターネット環境を理解する

「子どものゲーム時間が長すぎる」と感じた時、「しばらくはゲーム禁止!」と言いたくなってしまうこともあるかもしれません。
しかし大野先生は、「子どもの理解を得ず、衝動的にゲーム環境を奪うのは不適切」と強調します。

「頭ごなしに叱っても、やめさせるのは難しいでしょう。たとえゲームの時間が長すぎるとしても、お子さま自身が現状を変えようと思わなければ、行動は変化しないと考えられます。
また世界的には、青少年のゲーム依存の有病率は2~6%程度※であり、多少ゲーム時間が長い程度では該当しません。多くの場合は心配しすぎることはないので、冷静に対処したいところです」

ただ、心配しすぎる必要がないとはいっても、放任しすぎるのも禁物とのこと。
「ゲームは、やろうと思えば何時間でもできてしまうので、『気付けば生活の中心になっていた』『やめられなくなっていた』といった問題が起きやすいです。
また、保護者のかたが小・中・高校生のころと現在では情報環境がまったく違うことにも注意が必要です。今は小学生でも、自分専用のスマホを持っているお子さまが少なくありません。また、オンラインゲームでは常に、新しいコンテンツ、イベント、アイテムなどが供給され、注意を引き付けようとします。コミュニケーションを取る時間帯も相手も実質的に制限がありません。
お子さまが置かれた環境を理解して、放置しすぎないことも大切です」
(大野先生)

※出典 Hee Sun Kim, Gaeun Son, Eun-Bin Roh, Woo-Young Ahn, Jueun Kim, Suk-Ho Shin, Jeanyung Chey, Kee-Hong Choi, Prevalence of gaming disorder: A meta-analysis, Addictive Behaviors,Volume 126, 2022,

2.時間などのルールを話し合って決める

保護者のかたとしては「できるだけゲームの時間を減らしてほしい」と思うかもしれません。
でも、お子さまの希望をまったく聞き入れなければ、隠れてゲームをするようになる可能性も。
そこで大野先生がすすめるのが、ゲームで遊ぶにあたってのルールをご家庭で話し合って決めること。

保護者のかたの意見とお子さまの要望をすり合わせながら、「夜9時以降はやらない」「宿題が終わってから」といった具体的な項目を決めるとよいでしょう。

「ルール設定のポイントは、実現可能なものにすることです。たとえば保護者のかたは、『夕食の時間になったらすぐゲームをやめて食卓についてほしい』と考えがちです。しかしお子さまにとっては、ゲームが一段落するまではやめるのは難しいもの。そこで、声をかけたら遅くても10分後にはやめる、といった《守れそうなルール》を決めましょう。
前述の東京大学とベネッセが行った共同研究の調査結果では、小・中・高校生とも約9割はルールを守れていることがわかっています」(大野先生)

3.ゲーム以外の楽しみを一緒に見つける

ゲーム好きのお子さまは、「ゲームをしている時間が一番好き」と思っているかもしれません。
ですが、ほかに楽しいことが見つかれば、ゲームにのめり込む時間は自然と減っていくことが期待できる、と大野先生。
「特に有効だと考えられるのは運動です。ゲームを長時間する習慣が続くと、座っていることが多いため、骨密度の減少など健康面が危惧されます。一方で運動を続けることは健康にも脳の発達にも良い影響が期待できます。またペットの世話をしたり、料理や旅行など家族の関りを増やすこともおすすめです」
(大野先生)

ゲームとの付き合い方、ほかの家庭はどうしてる?【体験談】

ここからは、前述の保護者のかたに向けて実施したアンケート結果※1から、ゲームとの付き合い方に関してそれぞれのご家庭で工夫しているポイントをご紹介します。
全体に「宿題や明日の準備を終えてから許可」「家族がいる場所でのみ認める」「遊んでよい時間を決めている」といった声が目立ちました。
お子さまがゲームを適度に楽しむためには、大野先生もすすめるように何らかのルールを一緒に決めておくことが大切なようです。
具体的なルールはご家庭ごとに決めるのが一番ですが、迷った時はほかのご家庭の実例も参考にしてはいかがでしょうか。

(体験談)

ゲームをするのは「宿題と翌日の準備を済ませてから」と決めてあり、時間は夜9時まで。ゲーム機のタイマー機能などを使って、タイムリミットは必ず守らせています。「宿題が終わるまではNG」と約束してあるので、勉強そっちのけでゲーム……は回避できています。
(福岡県・イイヤマさん 第1子は小学4年生)

ゲームをする時間や場所はルールを設けています。また、タブレットのゲームに関しては視力低下の危険性を伝え、姿勢や明るさ、休憩を挟むことなどにも気を付けるように言っています。
(岐阜県・ゆっこまるさん 第1子は小学5年生)

ゲームをしてよいのは基本的には1時間としています。ただ、「家の手伝いをしたらゲーム時間を増やしてもいいよ」と言ってあり、具体的な時間は子どもとの交渉によって決めています。
(愛媛県・ココAさん 第1子は中学2年生)

「ゲームはタブレットのみ」と決めてあり、どのアプリをタブレットにダウンロードするかは私が一緒に確認。さらに1日1時間の使用制限をかけているので、そこまでゲームにのめり込まずに済んでいるようです。
(新潟県・くま吉さん 第1子は高校1年生)

専門家に頼るべきケースは?どこに相談する?

先ほどご紹介したように、 《主要性》(ゲームが生活の主要な部分を占めている)と《統制不能》(自分でコントロールできない)がお子さまにみられ、それが長期間続いていると感じるなどの問題を感じたら、専門家に相談することを検討しましょう。

「ネット依存やゲーム障害、スマホ依存などの専門外来を設けている病院やクリニックに相談するのがベストです。お住まいの地域に専門施設がなければ、近隣の病院の心療内科でもよいと思います」(大野先生)
ギャンブルやネット・ゲームを含む依存分野の診療や調査・研究、情報発信や治療法改善などに取り組む神奈川県の独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターのホームページにも、「ゲーム障害・ネット依存・スマホ依存の治療施設リスト」が掲載されているので、参考にしてください。

ゲーム障害・ネット依存・スマホ依存の治療施設リスト | 病院のご案内 | 久里浜医療センター

医療機関を受診するにあたって、「病院に連れて行こうとすると子どもが嫌がるのではないか」と心配なかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
大野先生も、「まずは保護者のかただけで相談に行って、方針を相談することもできる」と、家族が孤立しないことを強調しています。
「お子さまとしては自分が病気だと認めたくないし、ゲームを取り上げられるのも困ると考えるでしょう。まずは健康に問題がないか調べるなど、病院との関りを持つことでスムーズに治療に移ることができるという報告もあります。ゲームが生活の中心になっている場合は、低栄養など健康上の問題がみられることも多いそうです」

また、ゲーム依存の奧には、別の問題が隠れているケースも多々あるとのこと。
「うつ病などの精神症状が背景にあって衝動をコントロールできない場合や、現実生活の中に強いストレスが存在し、そのストレスを減少させるためにゲームにのめり込む場合もあります。問題の発見は早いほど解決しやすいので、まずは解決の糸口を見つけるために、念のために早い段階で受診する価値は十分にあると思います。
実際の治療は、アルコールや薬物などの物質依存ほど困難ではないと考えられています。解決できない問題ではない、ととらえてよいでしょう」(大野先生)

まとめ & 実践 TIPS

お子さまがルールを守ってゲームとよい付き合い方をするためには、保護者のかたがうまく導いてあげることが大切だといえそうです。
心配しすぎず、放任しすぎず、ほどよい距離感で見守ってあげてください。

プロフィール



東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所による共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクトに参画し、「教育と情報行動」などのテーマで研究活動に取り組む。専門分野は社会情報学・教育心理学。著書に『逃避型ネット依存の社会心理』(勁草書房)など。
https://researchmap.jp/ohnoshiroh

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