きれいなだけじゃない!桜のすごいところ

春の風物詩、桜。見るだけでも十分楽しめますが、実はその幹や樹皮は、われわれの文化の発展に貢献したり、家具、農作業道具などにも活用されたりしてきたのです。


出版文化に貢献していた桜の木

 かつて桜の木は、印刷のために文字や絵画などを反対向きに彫った板、版木(はんぎ)として用いられ、出版文化の発展に貢献していました。出版物は、版木に彫られ、和紙を当てて印刷されていたのです。桜は目がつまっていて堅いために、最良の版木とされました。
 日本では江戸時代に図書や浮世絵などが大量に出回るようになったので、その素材となる桜の木は重宝されました。松尾芭蕉の『奥の細道』や、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』も、桜の木に彫られて、多くの読者のもとへ届けられたのです。

 

高級調度品、武器、楽器、農作業用具としても

 桜は堅く、肌ツヤがよいので、小さな箱から、大きなたんす、棚材や火鉢など、高級な調度品の材料としても用いられました。桜の樹皮は、渋い赤紫で、磨けば磨くほど漆のような光沢を放つという魅力があるのです。
 また、桜の樹皮は、丈夫で強いことから、ひも状にして利用される場合もあります。正倉院に現存する投げ矢は、糸の代わりに桜の樹皮が選ばれているのです。
武器だけではなく、楽器にも桜の樹皮は使われています。雅楽で吹く管楽器の一つである龍笛(りゅうてき)や、能や歌舞伎で用いる能管(のうかん)にも巻かれています。
 日用品としては、籠(かご)、収穫した穀物の選別用農具の箕(み)、笠(かさ)などが桜の樹皮で作られました。また、曲げわっぱと呼ばれる木製のお弁当箱にも桜の樹皮は使われ、曲げわっぱの板と板を縫う縫合材料として、丈夫な糸の役割を果たしています。

 

染め物の材料としても

 桜は、幹、枝、花、葉…と、いずれも染め物の材料になります。枝や樹皮からは赤茶に近い液がとれ、灰汁(あく)、石炭、鉄など、染める際に使う媒染(ばいせん)に応じて、うすもも、ベージュ、茶、グレーなどの色に染まります。
 
 出版文化、調度品、日用品、染め物の原料など、日本人の生活に密接に関わってきたのが桜。その歴史を知ることで、これまでとは違った視点から桜を楽しむこともできるのではないでしょうか。
 
 
参考:井筒清次『おもしろくてためになる桜の雑学事典』(日本実業出版社)

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