きれい、怪しい…文学で桜はどんな描かれ方をしている?
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日本の春の風物詩、桜。日本文学の中でもさまざまな描かれ方がされてきました。

紫式部と清少納言
紫式部が著した『源氏物語』の「花宴」という巻では、光源氏が宮中花宴のあと、朧月夜(おぼろづきよ)という女性と出会い結ばれるシーンを盛り上げる演出として桜は用いられています。
一方、同時代に生きた清少納言は、桜にたいしてどう思っていたのでしょうか。
“桜は花びらおほきに葉の色こきが枝ほそくて咲きたる。”
と、「桜は花びらが大きく、葉の色が濃く、枝も細いのに咲いているのがよい」と言っています。また、
”高欄のもとに青きかめの大きなる据ゑて桜のいみじくおもしろき枝の五尺ばかりなるをいと多くさしたれば高欄のとまでこぼれたる”
と、枝を五尺に切って花瓶に差して、高欄に外まで花が咲きこぼれた風情をよしとしています。
なにかと比較される、紫式部と清少納言。紫式部は『源氏物語』の中で桜に一定の役割を与えており、清少納言は『枕草子』の中で、桜の美しい風情について描写しています。ですが、桜よりも梅のほうが清少納言は好きだったようで、
“木の花は、こきも薄きも紅梅”
とも、書いています。
信濃前司行長『平家物語』
祇園精舎の鐘の音…で始まる『平家物語』にも桜が登場します。桜町中納言(さくらまちのちゅうなごん)の通称で呼ばれた藤原成範(ふじわらのしげのり)の話です。成範は風流心が旺盛で、常に吉野山に思いを馳せ、町に桜を植えて住んでいたので、桜町と呼ばれるようになったとか。あるとき、7日で桜の花が終わるのを悲しみ、天照大神に祈ったところ、21日もの間咲き続けたという話が残っています。吉田兼好『徒然草』
吉田兼好の『徒然草』では、
“花は盛りに、月は隈(くま)なきをのみ、見るものかは。…咲きぬべきほどの梢、散り萎(しお)れたる庭などこそ、見所多けれ。”
これは「桜は満開のときだけ鑑賞するものではなく、咲き始めや散ったあとに趣がある」という意味です。
また、
“家にありたき木は、松・桜。…花は、一重なる、よし。八重桜は、奈良の都にのみありけるを、この比(ころ)ぞ、世に多く成り侍(はんべ)るなる。吉野の花、左近の桜、皆、一重にてこそあれ。八重桜は異様のものなり。いとこちたく、ねぢけたり。植ゑずともありなん。遅桜、またすさまじ。蟲の附(つ)きたるもむつかし。”
…と、「自分の家に植えたいのは松と桜。桜は一重がいい。奈良の八重桜は、最近あちこちで見かけるようになったが、吉野山、平安京の桜は、みな一重だ。八重桜はうねうねとねじ曲がった花を咲かせるから、植えなくてもいいだろう。遅咲きの桜は興ざめだ、毛虫がついているのも気味が悪い」という意味のことを言っています。
谷崎潤一郎『細雪』
谷崎潤一郎の『細雪』は、当時の大阪の中産階級を描いた作品で、京都への1泊2日の花見の様子が描かれています。祇園の夜桜、平安神宮神苑の枝垂桜と、桜へのあこがれがよくあらわれています。昼食や夜食などについて言及されているのも、当時のお花見の際の食べ物を知る上で興味深いです。坂口安吾『桜の森の満開の下』
桜にはどこか怪しい雰囲気があります。それを作品化したものが、坂口安吾の『桜の森の満開の下』です。これは、『今昔物語集』巻二七をもとにしたもので、山賊と京の姫の話が描かれています。
文学において、桜がどのように描かれてきたのか、桜という切り口から文学を楽しんでみるのもよいのではないでしょうか。
参考:
井筒清次『おもしろくてためになる桜の雑学事典』(日本実業出版社)
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