夏休みに読もう! 中学入試によく出る作家や作品は?【前編】

夏休みは読書習慣をつけるのにぴったりの時期。どんな本を子どもにすすめようか……と迷っている場合、もし中学入試を考えているのであれば、入試問題に出題されやすい作家やテーマの作品を読んでみるといいかもしれません。読書の楽しさを感じるとともに、入試にも役立つとなれば、まさに一石二鳥です。進研ゼミの国語教材を担当する西村美紀が近年の中学入試国語の出題傾向を解説します。

読んだことのある作品が出題されたら、こんなに有利!

中学入試の国語で取り上げられる作品には、ある程度の傾向があります。もし入試問題に、以前読んだことのある作品が出題されたら、有利に働くことはまちがいありません。

入試問題は、学校によって違いはありますが、物語文と説明・論説文の組み合わせで出題される場合が多くあります。さらにこれらに比べると分量は少ないですが、韻文(詩や短歌、俳句)や随筆、鑑賞文などを出題する学校も1割程度あります。

素材文の分量は、物語文は4,000~5,000字、説明・論説文は2,000~4,000字くらいのところも多くあります。仮に5,000字とすると、一般的な文庫本約8ページほどになりますから、結構なボリュームです。45~50分間の試験時間に2つの長文を読んで問題に答えるわけですから、どれだけスピーディ、かつ的確に文章を読み取るかがカギを握るといえるでしょう。

そうしたことを考えると、読んだことのある作品が出題された場合は、やはり有利といえます。物語文でしたら一読すれば以前に読んだときの記憶がよみがえり、場面構成や登場人物が素早く頭に入りますし、説明・論説文でも筆者の主義・主張を理解しやすくなります。

中学入試に出題される定番作家の作品を読んでみよう

それでは、出題される作品を予測できるのかと問われると、「ある程度の傾向は予測できる」という答えになります。物語文と説明・論説文に分けて傾向と対策を説明します。

◆物語文の傾向は?

・定番はこの作家たち!
文章力が高くて読み応えがあり、小学校高学年が理解できるわかりやすい文章で書かれていて、なおかつ小学生が共感しやすいテーマを扱う作家となると、おのずと限られてきます。特に中学入試の国語の問題として人気が高いのは、『14歳の水平線』などで知られる椰月美智子さん、子どもが等身大に感じられる作品が多い重松清さんの二人です。この二人は定番中の定番といえるでしょう。他には、森絵都さんや瀬尾まいこさん、あさのあつこさん、宮下奈都さんなどの作品も多く出題されています。特に小学生〜中学生くらいの主人公が登場し、友情、成長、家族などをテーマとするものが取り上げられやすい傾向にあります。

・短編集をチェック!
短編は、短い文章の中に感情のうねりやクライマックスなどの出題しやすい場面が含まれるため、入試の素材文に使いやすいという特性があります。例えば、これまで非常に多くの中学入試で出題されてきた重松清さんの『小学五年生』『きみの友だち』、瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』、宮下奈都さんの『よろこびの歌』は、いずれも短編もしくは連作短編集です。

・学校によって傾向が異なる!
毎年、同じ作家の作品を出題したり、比較的古い作家の作品が多かったり、特定のテーマが目立ったり、学校によって傾向がある場合があります。過去5年ほどの入試問題をチェックして、志望校の傾向をつかんでおきましょう。

・定番作家たちの、夏までに出た新刊を要チェック!
これは出題側の作業的な事情ですが、入試問題の作成に必要な期間から逆算すると、秋には作り始めないと間に合わないようです。そう考えると、その年の夏までに発刊された新刊はねらい目といえます。もし前述した椰月美智子さんや重松清さんなどの定番作家が夏までに新刊を出しているようなら、実際に出題されるかどうかは別として、入試問題の作成に関わる人のほとんどはチェックしていると考えていいでしょう。

・古い作品にも親しんでおこう!
夏目漱石の『こころ』や山本有三の『路傍の石』などを出題した学校もあります。古い作品は、現代小説とは時代背景や文体が異なり、読み慣れていないとスムーズに頭に入ってきません。ふだんから読んでおくと、周りに差をつけられるかもしれません。

◆物語文の対策は?

・まずは読書を楽しもう!
小学校4年生くらいから、ここで紹介した作家の作品を読み始めるといいでしょう。最初は受験を意識せず、読書を楽しむ気持ちをもたせてあげてください。本をすすめるときは、「受験に役立つよ」ではなく、「この本、おもしろいよ」などと伝え、「読みたい」という気持ちを起こさせましょう。

・論理的に読み、説明する力をつけよう!
最近の小学校の国語では、子どもの感受性を豊かにする教育に比較的重点を置いているようです。例えば、同じ物語を読んで、一人ひとりが異なる感想をもつことはポジティブに捉えられています。そうした教育も大事だと思いますが、中学入試を考えると話は別です。入試では、文脈を追って作者の意図を正確に読み取る必要があります。仮に、ある物語を読んだ子どもが「悲しい」と感じても、作者が悔しさを伝えようとしていたなら、「悔しい」と答えなくてはならないのです。さらにいうと、「○○○が○○○をしたから、悔しい」などと、自分が読み取ったことを状況や理由を含めて論理的に説明する力が求められます。

そもそも物語文などの素材文を読むのが苦手な子の場合は、語彙力が不足していて、言葉や文章の意味が頭に入ってこないというケースが多いです。問題を解くだけでなく、語彙力をつけておくことも大切な入試対策といえます。例えば、周りの大人たちと会話するだけでも、ふだん使わない語彙力の拡充は、物語文の読解だけでなく、記述力を鍛えるうえでも重要になります。

後編では、説明・論説文の傾向と対策を解説します。

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