江戸川大学 メディアコミュニケーション学部 こどもコミュニケーション学科(1) あらゆる世代に必要な自分の言葉で思考し、表現する経験[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。「言葉を交わして育てる教育」を研究している江戸川大学メディアコミュニケーション学部 こどもコミュニケーション学科の浅川陽子教授の研究を紹介します。



■「自分の言葉を見つける学び」との出合い

私はこれまで「言葉を生みだす学び合い」について研究してきました。これは、自分の心が動いた経験を言葉で他者に伝えたいという衝動と、それを聞きたいという気持ちを原動力にした学び合いのことです。この学びの大切さに気付かせてくれたのは、勉強が苦手なある小学生の男の子でした。
大学の教員になる以前、私は25年ほど小学校教諭として学校現場にいました。すべての子どもに力を付けさせたいと思い、教師として授業などの中で実践の工夫を続けていましたが、なかには教科書は持ってこない、鉛筆を持たせると折ってしまうという、いわゆる「勉強嫌い」の子もよくいたのです。
5年生を担任したときのこと、「家の人の仕事を調べよう」という宿題に、その子は、革職人である父親に話を聞きました。父親は、「ひと言で、“かわ”と言っても『皮』という字もあれば『革』と書くこともある。そして、それぞれ意味が違う」ということを、その子に教えたのです。すると、その子は、自分の父親の仕事をみんなに正確に伝えたいと、初めて国語辞典を手に取るのです。そして、その時を境に、同じ響きだけれども、違う意味を表す言葉があるということを我がこととして学び、言葉で表現することに怖じ気づくことが減りました。クラスメイトが「へぇ! すごい」と、その子の父親の話を聞いてくれたという喜びも大きかったのでしょう。

人は、知りたいこと・聞きたいこと・表現したいことがあって初めて学ぶ意欲が生まれるのだということを、その子は私に教えてくれました。子どもが、「こんなおもしろいことを伝えたい」と思った瞬間を見逃さずに手を差し伸べることが寄り添って育てる教育の本質だと感じたのです。それが、私の「言葉を交わして育てる教育」、「学び合いを重視する教育」との出合いでした。



■自分を表現する言葉を育てるために

大学の教員になってからは、大学生にも「自ら考え、言葉で表現したい」と思ってもらえるような仕掛けを講義の中に取り入れています。特に、今の大学生は「将来こうなりたい」、「大学でこんな研究をしたい」といった思いを明確化できずに入学してくる人が少なくありません。たくさん考え、どんどん書くことで、自らの気持ちを整理し、自分が本当は何をしたいのか、何に心を揺さぶられ、何を学ぶのかを自覚していく必要があると感じています。


大学生が「自分史を書く」というテーマで作った冊子

そこで、「自分史を書く」という活動に注目しました。この取り組みを通じて、これまでに出会った人や教えを振り返り、それまで気付かなかった自分の価値や、友人を持つことの意味、今置かれている立場を認識するようになり、次なる目標を定めていくことができるのです。
これまで言葉によって評価されたり、テストをされたりしてきた学生たちの中には、言葉を発することに対して拒絶反応を示すことがあります。
このワークを経ると、そうした学生も「言葉とは、自分を表現する大事なツールなのだ」ということを改めて発見し、人の話を聞くことに興味を持ち、自分の言葉で語ることを恐れなくなっていきます。
なかには、自分の言葉をダイレクトに表現するのは荷が重いという学生もいます。そんな学生たちのためには、自分の心に留まった詩を書き出し、「詩のアンソロジーを作る」という活動を実施していきます。これは、自分の心を投影した詩と出合い、それを書き留め、みんなの前で発表し、最後に話し合いの中で考えを深めていくという活動です。

このように自分の言葉で表現し、他者に伝える学び合いは、いくつになっても実り多いものだと私は思います。「自分史を書く」「詩のアンソロジーを作る」といったアプローチは同じでも、この活動から得る学びは、小学生と大学生、そしてシニア世代とでは明らかに異なるでしょう。しかし、本質的には、言葉を交わす学び合いは、いくつになっても自分自身の新たな発見と成長につながるものだと信じています。



■絵本との出会いが人に与える影響を吟味する

近年では、言葉を交わす学び合いの中で、絵本学の研究を進めています。
「あなたは小さい頃にどんな絵本を読んでもらいましたか--」「19歳の今、お気に入りの絵本はどれですか」。当然のことながら、この質問に対する回答はそれぞれ違います。絵本への思いを語るとき、その人の価値観や人生観が垣間見えます。そこで、絵本が人格を形成するうえでどんな役割を担っているのかを考察したり、大切なことを伝える絵本の仕掛けを紐(ひも)解いたり、読み聞かせで生まれる対話空間の在り方を吟味したりする学問が絵本学なのです。そのため、私の研究室には絵本に関心を持つ学生が集まってきます。

江戸川大学には、同じキャンパス内に「えどがわ森の保育園」があります。立地上のメリットを生かして、学生たちと共に、園児たちへ読み聞かせをしながら、絵本のもたらす効果や読み聞かせの技術についても研究しています。
子どもたちが短期間でどう成長しているのか、子どもたちが絵本のどんな表現に注目するのかなどを観察することができるのです。机上の研究だけでなく、実践的に体験しながら学ぶことができる点で当大学は恵まれていると感じています。

「自分史を書く」「詩のアンソロジーを作る」「自分の絵本史を振り返る」など、自分の言葉で考え表現する「言葉を交わす学び合い」の機会を大学の4年間でたくさん設けていきます。自他の言葉を尊重し、言葉と人を大切にする姿勢をしっかり身につけるには、多様な機会を数多く経験する必要があるからです。これからも、目の前の学生のニーズを鑑みて、自分を表現できるようになるとともに、人の言葉に耳を傾ける機会を増やす取り組みを積極的に取り入れていきたいと考えています。

プロフィール


浅川陽子

お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科修了。子どもの発達とことばの学び、児童教育、教師教育、幼保小連携などについて研究。著書に、『ことばの生まれ育つ教室--子どもの内面を耕す授業』(共著/金子書房)など多数。

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