青山学院大学 教育人間科学部 心理学科(1) 音楽と心の関係を科学的に探究する[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。音と心の関係を科学的に探究されている青山学院大学教育人間科学部の重野純先生の研究室をご紹介します。前編では、先生のご研究内容についてお伺いしました。



■デートや合コンでBGMを流すと好感度が上がる!

私の専門の認知心理学とは、人間の認知活動のしくみを、実験を通して解明していく学問です。「認知」というのは、赤や黄色といった色がわかる「感覚」や、バラやカーネーションといった花の種類を経験から区別する「知覚」より、もっと高度な知的活動で、もののしくみを認識したり、理解したりすることを指す言葉です。「認知」の中でも私が関心を持っているのが、聴覚に関わる認知活動です。主に音、音楽、音声言語の3つを研究対象にして、それらと人との関わり合いを研究しています。


重野先生の「音楽心理学」の授業の様子

たとえば、音楽は人の気持ちにどのような影響を与えるかということを研究しています。過去に私は、異性と会話をする時に、好感の持てる音楽(BGM)を流すと、音楽を流さなかった場合に比べ、相手の好感度が増すのではないかと仮説を立て、調査しました。その結果、「BGMを流していたほうが、好感度は上がる」という傾向が認められました。音楽を流して異性と会話をすると、緩やかではありますが、相手の印象がすべての項目でプラスに変化する傾向にあることが明らかになったのです。音楽がないとシビアに人物評定をしてしまうのに対して、音楽を聞いたことによって、寛容な気持ちになるのではないかと考えられます。ですから、デートや合コンでBGMを流すのは効果的だといえますね。

恋愛に効果的な音楽のジャンルというのも研究されているんですよ。フランスのブルターニュ大学のゲガン教授の研究では、ロマンチックな音楽を聞いたあとでは、女性は電話番号を教えてくれる割合が高かったという結果が出ています。音楽を聞くと、感動したり、元気になったりした経験をしたことがあるかたも多いと思いますが、それは音楽によって情動(感情)が動かされたからだと考えられます。このように、「音」と人の心には深い関係性があり、コミュニケーションや恋愛という面においても重要な要素であることが、研究から明らかになっています。



■音に敏感な日本人

特に、日本人は音に対して、欧米の人に比べて敏感で繊細な感受性を持っています。たとえば、上司に急な残業を頼まれた時、「はい、任せてください」と笑顔で答えたとしても、(本当は帰りたかったのに)というニュアンスが声に出てしまうことがありますよね。日本人は、そうした声のニュアンスもくみとれる人が多いということが研究から明らかになっているんですよ。
日本では、江戸時代から庭園に水琴窟やししおどしを装飾として用い、音も楽しんでいました。また、俳句にも季節ごとに音を表す言葉が数多く登場します。こうした背景から、日本人は微細な自然の音や、音を言葉にした響きがもつ情緒などに対しても敏感なようです。

一方、欧米のかたは、声の微妙な調子から心理状況を読むのは、苦手なようです。顔の表情はユニバーサルだといわれていますが、声のニュアンスを読むことには文化間に差があることを知っておくことは、国際社会に出ていくうえでとても大切だといえます。
社会を生きていくうえで、人と関わるうえで、人の心のメカニズムを知っておくことは、心理学の専門家を目指す人だけでなく、どの道に進むとしても非常に役に立つと思います。



■日常の疑問を、実験を通して説明できるのが醍醐味(だいごみ)!

認知心理学は、心理学の領域の中で、実験心理学に位置付けられています。
人間の行動を実験から明らかにしていきます。自分が日常生活で思ったことを、仮説を立て、それを検証するための予備実験を行い、コツコツ材料を集め、仮説を立証していくのがとてもおもしろいです。文系学部ですが、実験を通して白か黒かはっきりわかる科学的な学問であり、そこが醍醐味だといえます。

ただ、そこに至るまでに大事なのが、予備実験です。私は学生によく料理に例えて説明しています。おいしい料理を作ろうとする時、まず大切なのはよい材料を集めること。材料が新鮮でなければ、いくら手間をかけてもおいしい料理には仕上がりません。心理学の実験も同じです。論文の材料となる予備実験のデータをそろえることが大切です。そのためには、コツコツ取り組むことです。

文系で進学してきた学生さんたちにとって、統計を扱ったり、実験をしたりするところにとまどう人も多いですが、それらは勉強して身に付けていけば大丈夫です。どうして人はこうした行動をとるのかな? そんなふとした疑問をコツコツ実験によって明らかにしたいという人に、ぜひ学んでいただきたい分野です。


プロフィール


重野 純

東京都生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得。文学博士。現在、青山学院大学教育人間科学部教授。主な専門領域は、認知心理学、心理言語学、音楽心理学。主な編著書に『キーワードコレクション心理学 改訂版』、『言語とこころ』(新曜社)などがある。

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