日本大学 文理学部 国文学科(1) 『あまちゃん』の「方言コスプレ」から社会が見える[大学研究室訪問 学びの先にあるもの 第14回]
日本大学 文理学部国文学科(1)
『あまちゃん』の「方言コスプレ」から社会が見える
日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。前回までに続き、連載14回目は、方言などの研究をしている、日本大学の田中ゆかり教授の研究室です。誰にも身近な日本語を手がかりに社会の変化を描き出そうと、厳しくも温かい学びが行われています。
多くの人が普段の生活で使っている「方言コスプレ」
大ブームを巻き起こしたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で、改めて「方言」に注目が集まりました。東京で生まれ育ったヒロインが、祖母の住む岩手に行ったのを機に、「暗くて地味でぱっとしない」自分を変えようと思い立ちます。ドラマでは、自分を変える象徴として、ヒロインは、自分の言葉を標準語からそれまでなじみのなかった岩手の「方言」に切り替えます。このような「方言」を使ったキャラクターを立ち上げる行動を、私は「方言コスプレ」と名付け、言語研究の分析対象として注目しています。
東北弁なら「素朴」、関西弁なら「おもしろい」、九州弁なら「男らしい」など、方言にはさまざまなイメージが与えられています。そんなイメージを利用して、自分の故郷でもない地域の「方言」を使って、自分のキャラクターや発話を演出した経験をお持ちのかたも少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。『あまちゃん』のヒロインが、生まれ育った地域でもないところの「方言」をいきなり話し始めることを、多くの視聴者が違和感なく受け入れたのは、そうした「方言コスプレ」的感性が日本語社会に浸透している証拠と見ることもできそうです。
言葉を通じて社会を読み解きたい
「方言コスプレ」が生まれた背景には、社会の変化があります。以前は、人間のあるべき生き方として、どんな時にも変わらない「自分らしさ」を追求することが理想とされました。しかし、複雑な現代の世の中では、状況や役割によって自分の立ち位置を変えることが求められます。「方言コスプレ」は、そうした現代にフィットする言語行動なのです。
私は、言葉を通じて社会を読み解きたいと思っています。言葉は、多くの場合、意識せずに使うものだからこそ、その時代を反映すると考えます。同じ言葉や表現でも、時代によって受け止められ方が違います。1970年代ごろまでは、テレビドラマやCMで方言を使うと、「地方を馬鹿にしている」「わかりづらい」などといった苦情が寄せられました。しかし、今では「方言コスプレ」ドラマである『あまちゃん』の人気に限らず、方言CMも花盛りです。こういったところからも、社会の変化が見えてきます。
諦めないという気持ちが 社会人としての財産になる
ゼミの学生たちと一緒に
私のゼミでは、学生たちに、それぞれの興味に従って、言葉に関するさまざまなテーマを自主的に選択させ、研究を進めさせています。そこで大切なのは、何をどう調査すると自分の主張したいことが言えそうなのか、考え抜くことです。たとえば『あまちゃん』の方言に興味を持ったなら、現在や過去の他のテレビドラマなどとの比較を通じて、その特徴が見えてきます。それも、手当たり次第に調べるのではなく、どのドラマを調べると効果的な調査ができるのか、粘り強く考えてもらいたいと思っているのです。
学生への私の指導は、優しいとはいえないと思います(笑)。学生が苦労して行った調査をやり直させることもあります。しかし、出されたダメを乗り越えるために知恵を絞り、調査を重ねて得られた結果は、その人にしか出せない、かけがえのないものです。それは、大学における研究だけでなく、そのあとの人生のさまざまな局面で役に立つのではないでしょうか。「研究テーマを見つけるところから始め、調べ、そして調べたデータを分析し、自分なりの結果を出すという全行程を、自分自身の手でやり遂げたのだ」--学生たちには、そんな気持ちを胸に卒業してほしいなあ、と毎年思っています。
卒業生に聞きました! |
新井 起子さん(2004年卒業、秩父市役所勤務) |
次回は、学生への指導にも影響している先生自身の研究者人生や、高校時代までにすべきことなどを伺います。