流通経済大学 流通情報学部 流通情報学科 (1) モノや情報を適切な時、量、状態で届けるための学問「ロジスティクス」が社会を便利で快適にする[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。連載5回目は、モノや情報の最適な流れを管理する「ロジスティクス」が専門の、流通経済大学の矢野裕児教授の研究室です。



■回転寿司で「食べたいネタを、おいしく、速く」提供するために、ネタをスライスする場所を考えるのもロジスティクス

私の専門は「ロジスティクス」、以前からある言葉で言えば「物流」です。そう聞くと、トラックや飛行機などの輸送手段を思い浮かべるかたが多いでしょう。しかし、ロジスティクスがめざすのは、ただ、モノを速く効率よく運ぶことだけではありません。

たとえばみなさんもおなじみの回転寿司なら、世界中の海のどこからネタを調達し、どうやって日本に運び、どこでどうスライスするか。おいしさ、新鮮さ、安さ、速さのバランスをとりながら、ネタごとに検討します。クロマグロは地中海で捕り、航空機で運ばれます。日本近海で捕れたものは生きて泳いでいる状態で運ぶ場合もあります。これらを日本のセントラルキッチンでさばいたり、お店でスライスするといったことを行っています。ウナギは現地で串に刺してから冷凍して日本に運びます。サーモンもたとえばチリで捕り、現地でスライスしてから冷凍して日本に運ぶ、といった具合です。また、皿にICチップを付け、皿の流れを管理し、精算を楽にしたり、注文をタッチパネルにして、注文を素早く受けられるような工夫をしています。そんなふうに、必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ、必要な状態で届けるために、モノや情報の効果的な流れ方を考えるのが、ロジスティクスなのです。



■最先端の企業の現場に行って理解を深め、問題点を知り、解決策を考える

ロジスティクスは企業で大きく発展しました。代表的なのが、トヨタ自動車の「ジャストインタイム」と呼ばれる生産方式です。自動車をつくるにはたくさんの部品が必要ですが、前もってつくりすぎると、在庫をたくさん抱え、損をしかねません。そこで、トヨタ自動車では、注文の情報が各部品の製造工場などに素早く行き渡り、必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ生産するシステムを築き上げたのです。こうした考えが、他の企業や業種にも広がり、商売の方法を大きく変えました。コンビニエンスストアや回転寿司は、ロジスティクスの産物といえます。



トラックで荷物が運び入れられたり出て行ったりする「バックヤード」の様子をシミュレーションし、効率的にモノを運ぶ方法を検証するのもロジスティクス。

このように、ロジスティクスを学ぶための材料の多くは、企業にあります。そこで、私の所属している流通経済大学の流通情報学部では、たくさんの企業と連携し、企業から年間約75名の講師を招く他、年間約10社を訪問して、最先端のロジスティクスを肌で感じ、学んでいます。こうした経験を通して、ロジスティクスに対する理解を深めたり、問題点を知り、解決策を考え、検証したりしているのです。



■東日本大震災で明らかになった 大学でのロジスティクスの重要性


「ロジスティクス企業訪問講座」の様子
平成24年度は、5日間にわたって11社を訪問した

では、企業で進んでいるロジスティクスを、大学で学問として学ぶ意義はどこにあるのでしょうか。

先ほど触れた回転寿司の例には、コンビニなど、他の業界のロジスティクスの成果がたくさん生かされています。多くの企業が、ジャストインタイムの生産方式を学ぶため、トヨタに教えを乞うてもいます。このように、ロジスティクスには、他業種から学べることがたくさんあります。しかし、企業秘密という面もあり、実際には、企業や業種の壁を超えるのは簡単なことではありません。大学が学問としてロジスティクスを科学的に研究すれば、その成果として、進んだロジスティクスが企業や業種の壁を超えて広がり、経済全体を活発にすると期待できるのです。

東日本大震災の際、キャップが足りないことでペットボトルの商品が品薄になった、紙やインクが不足して本や雑誌が出せない、といった事態が起きたのを覚えているでしょうか。実は、ロジスティクスが進んでいたことが、原因の一つと指摘されました。企業が効率化のために工場の数をどんどん減らし、在庫を少なくしていたため、数か所の工場が被災して生産ができなくなっただけで、途端に在庫が底をついてしまったのです。ロジスティクスを考えるには、万一に備えて在庫を確保するなどのリスク管理の配慮が必要です。しかし、企業では、そうしたもうけにつながらないことは後回しにされがちです。環境問題にも同じことがいえます。そこで最近では、大学がそうしたリスク管理や環境問題を考慮したロジスティクスを研究し、社会に広めていく役割も期待されるようになっているのです。



学生に聞きました!

小坂 宜弘さん(2009年入学、茨城県出身)

「東京ソラマチ」の裏側を見学。荷下ろし時間の短縮など、普段見られない工夫を知った

私は矢野先生の企業訪問講座で企業の物流センターなどを見学し、たくさんのことを学びました。「現場」だからこそ、教室での授業と違っていろいろなことを五感で感じ、吸収できました。講座を終えて、必要な単位をとったあとにも、もう単位にならないのに先生に頼んで何度か参加させてもらったくらい、わくわくする体験でした。特に印象的だったのは、東京スカイツリーに隣接する商業施設「東京ソラマチ」の裏側で、荷物が運び入られたり出て行ったりするバックヤードの見学です。トラックがスムーズに動けるようにするための工夫、荷下ろしの時間を短くするための工夫など、いつもは表側しか見えていなかった売り場の裏側が見られたことは、とても刺激的でした。

私は高校時代に毎日、新聞を読んでいました。おかげで、世の中の動きや社会のしくみについて、ひと通りの知識を持つことができました。大学での勉強は、実際の社会がベースにあって成り立つものばかりでした。最初のうちは、基礎的な理論などの勉強をすることもありますが、具体例として企業の名前が出てきた時、その企業について知らなかったら、まったく頭に入ってきません。私は新聞のおかげで知識があったので、授業も理解できたし、矢野先生をはじめ多くの先生たちと親しくなれました。最近はコミュニケーション力が大事だといわれていますが、知識がなかったら何も話せないと思います。

もう一つ、高校生の頃にしていてよかったなと思うのは、「一人でもちゃんと生活できるように」と両親に言われて、家事や掃除などをしていたことです。実際に大学に入ってから親元を離れ、一人暮らしをするようになったんですが、そんな経験を積んでいたおかげで、環境の変化にもすぐに対応できたと思います。

プロフィール



横浜国立大学卒業、日本大学大学院理工学研究科博士課程修了。日通総合研究所などを経て現職。必要なモノや情報を、適切な時に、適切な量や状態で届ける「ロジスティクス」が専門。内閣府「東日本大震災における災害応急対策に関する検討会」特別委員なども務める。

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