親子でかなりのバトルになってしまいます[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小4男子のお母さま


質問

すぐに理解できるほうですが、忘れてしまうのも早く、何度も何度も繰り返し、繰り返しで、定着までにかなりの時間が掛かってしまいます。また、一度わからないと言い出すと何をどう説明しても「わからない。ムリ。できない」を繰り返し、親子でかなりのバトルになってしまいます。


小泉先生のアドバイス

お子さまの学習をフォローする手段を決める時期がやってきたと考えて良いでしょう。

中学受験では、お母さん(またはお父さん)が教える場合も多いでしょう。塾に通っていても、消化しきれなかった単元やわからない問題など、なんらかのフォローが必要だからです。そして親が子に教える場合は、今回のケースのように、どうしても「バトル」になりがちです。その原因の一つとしては、「親と子の関係」から「先生と生徒の関係」に気持ちを切り替えていないからだと思います。エリを正して、互いの役割を≪演じる≫ことが必要なのに、どこかに甘えが残っている可能性があります。
≪演じる≫というと、何か「わざとらしい」ように感じるかもしれませんが、これは実に大切なことだと思います。わたしたちの生活は、それぞれが役割を演じているから成り立っているのです。それは社会や家庭での約束事であり、これが守られないとさまざまな問題が起こります。たとえば、電車の運転士は≪時間通り正確に運転すること≫が期待されていて、それを一生懸命演じています。「もっときままに運転したい」という気持ちを抑えられなければ、社会生活は混乱してしまうのです。

それでは、先生を演じるとはどういうことでしょうか。たとえば、先生は生徒に対して、自信をもってベストな指導をすることが期待されています。ですから、予習は十分にする必要があります。ベテラン教師になってくると、この予習をさぼりたくなりますが、予習をしないとやはり良い授業はできません。他のことで忙しいという理由で、予習もせずに、その場で考えながら教えるようなことがたびたびあると、それは先生の役割を果たしていることにはなりません。当然、生徒(お子さま)は先生(お母さん)の評価を下げます。
また、「感情的にならない」のも、先生を演じる時には大切なポイントです。一般的な先生・生徒の関係でも、やる気がない生徒に対しては感情的になりがちです。いわんや母親であれば、そのような態度の我が子には腹も立ちます。しかし、先生という役割を演じている時は感情的になっても良い結果は出ません。もちろん、≪叱るな≫というわけではありません。あくまでも冷静に、生徒の状況を考えながら、「叱る」「ほめる」、あるいは「説明する」などの指導を行うほうが良いということです。

このように親が先生の役割をしようとすると、かなりストレスを伴う場合が多いでしょう。お母さんであれば、家事や仕事などで大忙しのはずです。そのうえ、先生の役割まで引き受けるのは考えただけで大変なことです。これは数学が得意なお父さんが、休日を使ってお子さまに教える場合も同じです。受験の算数は中学校・高校の数学の方法で指導してはいけませんから、中学受験を経験していないお父さんは初めからその解き方を学ぶ必要があります。また、通っている塾の教え方に沿って指導することも大切です。なぜなら、塾とご家庭での教え方が違っていると、お子さまは混乱するからです。算数を教える場合、この程度の配慮は先生を演じるうえで不可欠なのです。
これだけのことを考えても、親が子に教えるというのはなかなか大変なことです。かなりの覚悟が必要ですが、成功する一つの目安としては、≪教えるのが好きかどうか≫だと思います。時間も相当に取られますから、一つの趣味のように思わないとなかなか最後までやりきれないかもしれません。「このように教えてみよう」「やった、伸びた!」など、本気で向かい合えば教えることはとてもやりがいのある楽しいことです。楽しみながら力を注げれば、成果も上がる可能性が高いでしょうから、お子さまの信頼も大いに高まると思います。ここまでになれれば、親子であっても先生・生徒の役割を十分に果たしていることになります。

しかし、どうしてもバトルが続くようであれば、やはりその役割を他の人に譲ることも考えたほうが良いでしょう。家庭教師や個別指導という手段もありますし、中学受験を経験した兄や姉に指導を頼むのも方法です。兄や姉は親にはない厳しさがあるので、先生・生徒の関係がスムーズにいく場合が多いでしょう。ただし、定期的に教えるというのはかなり負担になりますから、わからない問題をタイムリーに教える程度が良いかもしれません。もちろん、通っている塾の先生に質問することで、抱えている問題を解決するのが基本ですから、あくまでも塾に任せる方法もあります。ただし、これはお子さまの性格にもよると思います。積極的に質問できないお子さまの場合は、やはりなんらかの対策を講じる必要が出てくるでしょう。
いずれにしても、これらの問題は4年生のころから顕著になると思います。お母さんが教えにくくなったと感じだしたら、お子さまの学習をフォローする手段を決める時期がやってきたと考えて良いでしょう。

プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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