中学受験で得られることが将来役立つ[中学受験]

不得意だった理科のことで、子どもが「このごろ、やっと理科の勉強方法がわかったから新しいところに入ってもあまり心配しなくて済むようになった。その方法は……」と得意そうに言うので、「それは良かったね」と笑顔で答えたが、心の中では「そんなことはずいぶん前に教えたのに、何をいまさら自分で発見したように言っているのか」と思ったというお母さんのお話を聞いた。

この場合、母親の回答は適切だったと言える。まず、そこで、子どもが得意になって説明していることは正しく、学習方法が身に付いたことが重要だ。学習方法を子どもが自分で気が付いたか、誰かに教えてもらったかは問題ではない。本当のことを言って子どものやる気を減退させる必要はない。むしろ、「それはすごい」とほめてあげることで、さらに子どものやる気を向上させるべきだろう。

子どもでなくとも、人から聞いた話を一回で完全に理解できるわけがない。頭の片隅に母親からのアドバイスが残っていたとしても、そのアドバイスすべてが理解できていたわけではないから、気付いたのはけっこうすごいことだと思うべきだ。ここで重要なのは、子どもが自分で発見したと思っていることだ。自分で考えたことは、やる気につながるので、否定する必要はないのだ。子どもを指導する場合、何を優先順位とするか迷うのであれば、子どものやる気を向上させることを第一に考えると、良い結果が得られる。

ところで、子どもが発見した理科の学習方法だが、「教科書や参考書を読むと必ず『**は**だ』というような結論があるので覚えるために線を引く。さらにその結論を証明(説明)する『どうしてそうなるか』が必ず書いてあるので、その理由も覚えるために線を引く」というものだったそうだ。本で物事を理解するための基本的な手法だが、理科だけでなく社会や算数でもそのように勉強すればよいと思う。
さらに、子どもが言うには「やたら線を引く友達がいて、『いっぱい勉強していてすごいなぁ』と思ったけれど、今は『たくさん線を引くと何が大事かわからなくなるし覚えなければいけないところが増えるから嫌だ』と思う」ということだった。確かに、これも正しい学習方法で、やたらに線を引く生徒はどこが大事かわかっていないのだ。

「自分の話をちゃんと聞いていない」という母親の気持ちもわかるが、わたしだったら本当にうれしくなると思う。学習方法だけではなく、困難に向き合いながら、自分が体験して納得したことは身に付くものだ。中学受験の体験で子どもの将来に役立つことはたくさんあると思う。中学受験をとおして子どもが成長していく姿を子どものそばで見ることができるのは、この時期にしかできないことかもしれない。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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