能力と人柄を向上させる人間教育は中高で受ける [中学受験]

最近は、企業にもじっくり時間をかけて人材を育成するゆとりがなくなってきているせいか、即戦力と期待できる人材を採用する傾向が明確となっている。すでに企業で通用する能力を大学時代に発揮している即戦力となる人材を積極的に採用し、潜在能力は高くとも育成に時間がかかる大学院生や海外留学経験者などは敬遠される。

即戦力として期待できる人材とは、企業で仕事をするための基本的な要素(能力と人柄)を備えている人材だ。有名企業が人材に求める要素の1番目はコミュニケーション能力、2番目は行動力、3番目は熱意、5番目は協調性ということを先月のコラムで述べたが、これらの能力は、景気が悪くなればなるほど求められるようになるだろう。
一般に人間教育は、「人に対する思いやり」に象徴される人柄の向上を目的としているが、それだけではなく上記のような能力を身に付けることも目的としている。企業でも人柄は重視されるが、それは企業が人材に求める要素の4番目という位置付けだ。つまり、有名企業から内定をもらうためには中高での人間教育、特に能力の教育が非常に重要ということになる。

中高は人間教育を受けて、能力や人柄を身に付けるところで、大学は身に付けた能力や人柄を活用して成果を残すところだ。能力や人柄は中高で身に付けていなければ、大学で活用することはできない。しかし、就活では「大学時代に行った学業・部活・アルバイトなどのエピソードで能力や人柄を示す」ことが要求されるので、大学時代に育まれた能力や人柄と勘違いされるのだろう。
大学で真剣に取り組むことがなければ、能力を活用する機会はない。何かに真剣に取り組めば、必ず目標が生まれたり、問題が起こったりする。その目標・問題を自分が身に付けた能力で達成・解決することが成果となる。成果は、周囲から評価されて「強み」となる。学生にとっては自分の「強み」を活かすことができる企業で、企業にとってもその学生が企業の求めている人材であれば、両者の利益が一致して内定となる可能性が高い。

大学時代に、何も真剣に取り組むことがなかった学生は、エントリーシートでアピールすることがないので、面接まで進むことも難しい。なぜ、真剣に取り組むことをしなかったのかを学生に聞いてみると、原因はさまざまだが、最も多いのが、中高でクラブ活動や生徒会活動に参加することもなく、面倒なことは避けて通ってきたので、コミュニケーション能力などの能力を身に付けることができなかったというもの。もちろん、学生だけのせいではなく、学校が行事をとおして能力を向上させる指導を行ってくれたら、大学進学後は積極的に何かに取り組むことができたと思われる学生も多い。とても残念だ。希望する就職を得るためには中高でしっかり人間教育を受けて、能力や人柄を身に付ける必要がある。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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