人間教育と大学での就活[中学受験]

テレビのニュース番組の特集で、「幼稚園の芋ほり行事」を観た。ある幼稚園(保育園かも?)で毎年行われている行事で、幼稚園から2キロ離れたサツマイモ畑で芋ほりを行うのだが、番組で伝えたいことは、行事の中に盛り込んである人間教育だと思う。
その人間教育には二つの要素が組み込まれていた。一つ目は、生徒が掘ったサツマイモは、どれだけ持って帰るのも自由だが、自分で背負うことが義務付けられている。どんなに重くとも先生は助けないルールで、責任感を体験し身に付けさせる教育だ。映像では、小さな体で重そうなリュックを背負って、2キロの道のりをふらふら歩く児童の様子を映している。泣き出す児童が出てきても、先生は励ましてはいるが、助けはしない。次の映像では、先生が指示したわけではないが、自然発生的に前に進めない児童の手を仲間が引いたり、リュックを持ち上げたりして、仲間を助けている。二つ目は人間愛を実感させ、身に付けさせる教育だ。

ところで、私立中高一貫校では、「学力を向上させることを重視する」「人間性を育むことを重視する」及び「学力と人間性の両方を同程度に重視する」教育の学校がある。「学力を向上させることを重視する」教育を受験教育、「人間性を育むことを重視する」教育を全人教育・情操教育と分類できる。これまで女子校では、全人教育・情操教育を重視し、受験教育を軽視していたが、近年では受験生・保護者のニーズは受験教育重視の傾向が明確となり、全人教育・情操教育を重視する学校が減少する傾向にある。
さらに、「人間性を育むことを重視する」教育は、人間愛などを育む「人柄の教育」とコミュニケーション力や行動力などの「能力の教育」の二つの教育に分類できる。全人教育・情操教育では、「能力の教育」よりも「人柄の教育」の比重が高くなっていると思われる。

上記の幼稚園の行事で、責任感を身に付けさせる教育は「能力の教育」で、人間愛を実感する教育は「人柄の教育」だが、興味深いことに大手の有名企業が採用したい人材に求める要素に対応している。有名企業が求める人材の要素の6番目は責任感で、4番目は人柄となっていた。ちなみに1番目はコミュニケーション能力、2番目は行動力、3番目は熱意、5番目は協調性であった。
企業が要望する1~6番目の要素を見ると、人柄よりも能力のほうに比重が多くなっているようだ。その要素の順位は毎年ほとんど変わらないが、景気が悪い最近の就活では「能力重視で即戦力となる人材」を採用したいとする企業が多くなっている傾向がある。
芋ほりという行事に人間教育を盛り込み、実践している園は素晴らしいと思う。中高一貫校でも、学力だけでなく意図的な人間教育に取り組んで、能力と人柄を向上させることにより、就活に強い人材を輩出する学校に注目したい。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

子育て・教育Q&A