母親が決定権者であるご家庭が少ない理由[中学受験]

中学受験における、志望校の決定権者の傾向が、最近変わってきているように思える。同じ設問のアンケートを2007(平成19)年5月に387名の保護者に、2009(平成21)年7月に273名の保護者に行った。受験生本人が決定権者である割合は07年が62%、09年が60%で変わっていないが、父親が決定権者である割合は12%→21%と大幅に増加し、母親が決定権者である割合は28%→17%と大幅に減少した。これまでにも同じ設問のアンケートを行ったが、父親と母親の%が逆転するほどの結果は今回が初めてだ。母親が決定権者であるご家庭が減少したのはなぜだろうか。

中学受験における母親の役割は、志望校選定のための情報収集に始まり、子どもの生活全般や受験勉強の管理など幅広い。ほとんどの役割を母親が担っている。前のコラムで、中学受験における父親の関わり度について母親がどのように考えているかの調査結果を解説したが、積極的に協力してくれる父親が42%と少なく、まったく協力してくれない父親が14%もいる現状を考えると、母親が文句を言いたい気持ちもわかる。積極的に協力してくれる父親が決定権者であるならばまだしも、まったく協力してくれない父親が志望校の決定権者となるならば、母親としては納得できないであろう。

そのような状況で、母親の権限が少なくなることは、あまり考えられない。私立中高一貫校の先生方は母親に志望校の決定権があると考えている人が多い。学校説明会・オープンスクール・文化祭などの学校イベントには、ほとんどの場合、母親が主体となって参加するので、母親に志望校の決定権があるご家庭がほとんどと学校が考えるのも無理はない。
2007(平成19)年5月のアンケートで受験生本人が決定権者である割合が62%もあったことに驚いた先生方の要請もあって、その理由を調査したところ、多くのご家庭で、「受験生本人に志望校を決定させることで受験勉強に対しやる気を起こさせることが目的であった」ことがわかった。さらに、受験生本人に志望校を決定させる過程の調査から、母親がアドバイザーとして大きな役割を果たしており、受験生本人が決定権者でも、母親がアドバイザーとして実質的に志望校の決定を行っているケースが半分以上はあることがわかった。つまり、母親は志望校の決定権者としての実権を握っているのだ。

同様に、父親を決定権者にすることで、母親があえて父親に花を持たせて家庭内を円滑にしていると言うこともできる。父親が決定権者になるにしても学校情報を持っているのは母親なので、受験生本人が決定する場合と同じように、母親が父親にアドバイスをすることになる。名より実を取る、ということなのか? 今後、受験生本人や父親が決定権者である割合がいかに大きくなったとしても、実質的な決定権者は母親であると言えるだろう。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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