私立中学受験の志望校決定権者は誰か その1[中学受験]

そもそも中学受験では、志望校を最終決定するのは誰なのかと問うことはこれまで考えられなかった。一部の例外を除き、大学受験や高校受験では受験生本人が志望校を決定するのが当たり前になっているが、中学受験の場合は受験生本人がまだ小学6年生という年齢を考えると、保護者(特に母親)の決定権が強いと思われてきたからだ。世にある中学受験解読本や体験本にも、保護者がいかに学校を選んだかを縷々(るる)記されているのが定番である。

ところがである。2008年2月13日のコラムで書いた中学受験生の保護者452名〔小1~小6(466名)の内の小4~小6〕が参加したアンケートで、志望校の決定権は誰にあるのかを質問してみた。【図1】【表1】は、保護者アンケートの設問のうち、「誰が志望校を決定しましたか?(決定権が強いと思う上位3つを記入)」を集計したものである。

【図1 志望校の決定権者(保護者アンケート)】
志望校の決定権者第1位

志望校の決定権者第2位

志望校の決定権者第3位

【表1 志望校の決定権者(保護者アンケート)】
表:志望校の決定権者(保護者アンケート)

すると第1決定権者は「3.受験生本人」がトップで、2番手は「2.受験生の母親」になっている。「3.受験生本人」を55%の保護者が第1決定権者と回答しているのが印象的である。また、「1.受験生の父親」が第1決定権者となっている家庭も12%あり、まだ(?)父権が強い家庭も残っているようだ。「4.その他」は、祖父母、兄弟、塾の先生等がある。小学4年生の保護者の回答では、空欄(回答なし)も多く、まだ子どもが志望校を決定する学年に至っていないと考えられる。
これまで考えられてきた「保護者(特に母親)の決定権が強いのではないか」という仮説は、「55%の家庭で、受験生本人が志望校を決定している」という分析結果から見事に否定されたことになる。
しかし、ここで多数派となっている「3.受験生本人」の決定権が強いことが良いことかどうか。風潮に流されてはならない。少数派となっている「1.受験生の父親」の決定権が強いことが良い場合もある。このケースは、実は筆者の周囲には多い。こういった家庭では、「父親が子どもの資質や性格を理解し、子どもの幸せを考えて志望校を決定する能力と責任感があれば、父親が決定権を持つべきであろう」と考える。が、ともかく少数派だけに論じても実益がない。

ともあれ分析結果から、大学受験・高校受験と同様、中学受験でも受験生本人が志望校決定権を持つ家庭が多くなっていると思われる。世の中すべてにおいて子どもに決定権を持たせる傾向にはあるが、果たして小学6年生の子どもに志望校を決定できるかどうかは疑問が残る。しかし、私立中学校を志望する約55%もの家庭で受験生本人が最も強い志望校の決定権者であることは事実なのである。
ただ、アンケートにお答えいただいた保護者の心情を察すると、最後はご本人の意思で学校を選ばせたほうが良い、と考えられてのことではないかという気がする。
私事で恐縮だが、厳しい寮制カトリック校に行った姉が後年に「よくあんなところへ行ったものだ」と言いつつ、「先輩のりりしさに憧(あこが)れて入ったんだから仕方ないけれど……」と自ら言い訳をしていたことを思い出す。

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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