第15回 国語読解力とPISA型読解力(2)

第14回コラムに引き続き「PISA型読解力」についてお話しし、これが公立中高一貫校の適性検査問題にどのような影響を与えているかについて説明します。

2003年のPISAの結果報告に基づいて、文部科学省と大学など教育研究機関は、一斉に「読解力」向上のための研究と方策の検討に入りました。国立教育政策研究所の有元秀文氏は今後の日本の教育について「国際化する日本社会で、知識や技能を実生活の場面で活用する力が必要であり、また日常の課題解決を行う場面において、資料を評価したり根拠を明らかにしたりしながら、自分の考えを論理的に表現することができるコミュニケーションの力が必要である」(2007年、教育方法学会講演)と述べています。

文部科学省の行う全国学力調査問題B(主として活用)は、このような方向性の中で生まれました。そして、この流れは2004年度に開設された京都市立西京高等学校附属中学校や京都府立洛北高等学校附属中学校、2007年度開校の宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の適性検査問題に影響を与え、2005年度に開校した東京都立白鴎高等学校附属中学校、2006年度開校の東京都立小石川中等教育学校、東京都立両国高等学校附属中学校、東京都立桜修館中等教育学校などの適性検査問題に反映されています。適性検査で問われる「学力」と「読解力」は、このような潮流を踏まえて読み解く必要があるのです。
例えば、「PISA型読解力」の代表的な問題として「落書き」の問題があります。日本が初めてPISAに参加した2000年の問題です。

落書きについて、ヘルガとソフィーが自分の意見を書いた手紙が出てきます。
二つの手紙を要約してみることにします。


【ヘルガの手紙】
学校の壁の落書きを消して塗り直すのは、社会に余分な損失を負担させる。禁じられた場所に落書きをするのは悲しいことであり、(要約者注:フロンガスの入った塗装スプレーを使用することで)オゾン層を破壊する点でも犯罪的である。なぜ落書きをするのか理解できない。


【ソフィーの手紙】
人の好みはさまざまで、世の中はコミュニケーションと広告であふれている。目ざわりなポスターや看板はたいてい許されているのに、落書きは許可が必要なのか。看板も落書きも一種のコミュニケーションである。壁に描かれた花模様をまねた洋服は受け入れられ、同じスタイルの落書きが不愉快とみなされるのはおかしい。


【落書きに関する問1】で、「この2つの手紙に共通する目的」を4択から1つ選ばせたうえで、【問3】において、「あなたは、この手紙のどちらに賛成しますか。片方あるいは両方の手紙の内容にふれながら、自分なりの言葉を使ってあなたの考えを説明してください。」と出題されています。


さて、2008年度の適性検査問題の中に、以下のような問題がありました。


「駐車場にカラーコーンを置くことについて、賛成か反対か答えてから、あなたがそのように考えた理由を書きなさい。」
【千葉県立千葉中学校 二次検査2-1 3の(2)より】


また、2009年度には、下の出題もありました。


(1)「自転車が自歩道を走ることをすすめる立場に立って、車道を走る方がより注意を必要とすると主張するとしたら、どのような理由を挙げればよいか考えて書きなさい。」
(2)「自転車が車道を走ることをすすめる立場に立って、自歩道を走る方がより注意を必要とすると主張するとしたら、どのような理由を挙げればよいか考えて書きなさい。」
【東京都立両国高等学校附属中学校 検査 I  4 問題1(1)と(2)より】


これらの問題は、「落書き」の問いに似ていませんか。どんなところが似ているのか、ぜひ親子で話し合ってみてください。「PISA型読解力」は、公立中高一貫校で伸びる資質をもつ子どもを見いだすための「新しい学力」として適性検査問題に取り入れられているのです。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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