第23回 適性検査にひるまない子どもを育てる(2)

トレーニングによる学力向上を図る例として、「百マス計算」「○○式」「□□検定」など、さまざまなものが紹介されています。私は「百マス計算」の意義を全く否定するものではありませんが、たとえ習熟によって何十秒も短縮したからといって「文章題が解けるようになる」というわけでは決してありません。

小学生のうちに微分積分の計算問題が解けたとか、数学検定3級(中3終了程度)を取得したという子どもが、割合や速さの文章題になると解けない、図形の証明問題がわからない、高校数学の文章問題がまるで解けない…そのような子どもを幾人見てきたことでしょうか。文章題克服を、徹底したトレーニングによる問題の慣れによって行うこと、それは、私立中学受験・高校受験、中学・高校の定期試験をクリアする範囲ならば不可能ではないともいえます。しかし、小学生の子どもに「訓練して慣れることが算数・数学の勉強法だ」と植えつけてしまうと、かえって柔軟性に欠けた頭の固い、応用力のない子に仕立て上げてしまう結果になります。

「算数の文章題が解ける」ようになるには、先天的な資質の有無を無視することはできませんが、それでも義務教育段階の算数・数学に関しては、学習塾を含めた「教育環境の設定のしかた」と「幼少からの親のかかわり方」が反映すると思わざるを得ません。というのは、課題解決の際に求められる、対象に対して真摯(しんし)に継続して立ち向かうような「精神の安定性」と、落ち着いて対象物を見つめ乗り越えようとする「意志や傾向」は、日常の良好な家族関係を基盤としつつ、子どもの教育にかかわる「人」の影響が大きいと考えるからです。

私は私立小学校(私・国立中学校を志望する受験生が多く在籍)の教諭として教え子を麻布中学校や桜蔭中学校に進学させる経験をし、大手中学受験専門塾では受験算数の講師として開成中学校や女子学院中学校に合格するトップ層の子どもたちを指導してきました。また、現在主宰する「スクールETC」 では国立大学附属小中学生を中心に学習指導に当たってきました。
その間、一般の学校教諭や塾講師と異なり、子どもの学習指導のみならず保護者との関係構築に努めてきました。小中学生の学習指導を通じて子どもと親の双方を「本音のかかわり」の中で見つめ続けてきたわけです。そのような経験を通して見えてきたことは、感情の起伏のままに怒鳴り散らす親の元で育つ子どもや、自分の快・不快で行動し親を振り回してきた子どもには、上記の「精神の安定性」や「意志・傾向」は育たないということです。

社会的な地位の高い人、経済的資金力のある人、高い学歴をもつ人など、職業生活の場面では信望を集め堂々と振る舞っているであろう教育熱心なかたがたが、こと「わが子の教育」になると冷静かつ客観的な判断を失う場面をたくさん見てきました。一方、これまで学習塾など歯牙(しが)にもかけなかったかたがたが、公立中高一貫校の誕生で学習塾に目を向けるようになった姿も見てきました。しかし、そういったかたがたが学校制度や教育の現状について偏った認識や理解をもっている場合があり、あぜんとすることもあります。しょせん人は自分の生まれ育った境遇や受けてきた教育、自分が努力して伸ばしてきた能力開発の過程や結果という狭い認識範囲でしかわが子の教育にかかわれないのではないかと思わずにいられません。私は、大切なことは以下の4点ではないかと考えています。


  1. わが子を独立した人格をもった一人の人間存在として尊重し、進歩・発展を認め、愛情をかけていくこと
  2. 子ども一人ひとりの成長発達が異なることを理解し、個に応じて的確な判断と支援・指導を行うこと
  3. 子どもとかかわるあらゆる人々と良好なコミュニケーションをとり、共に見つめ続ける根気をもつこと
  4. 親こそが自分の頭で考える自立した人間になって、子どもと真剣に向き合うこと

こうしたことが日常生活の中で当たり前に行われていれば、子どもは力強く前向きに歩みだし、「適性検査」をはじめとした大きな試練の壁を乗り越えていくものだと思うのです。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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