通学時間と「我が子に合った学校」[中学受験]

私が中学生の時の話だが、学校のすぐ近くに住んでいる友人がいた。入学当時は、成績が優秀で、将来は東京大学に合格すると周囲から期待されていた。ところが、中2の時だったと思うが、彼が毎日のように遅刻してくるようになった。話を聞いてみると、毎日、NHKの朝の連続ドラマを見てから登校するので、どうしても遅刻をしてしまうということだった。彼には「おはなはん」というあだ名が付いた。問題は、その後「おはなはん」の成績が下がり始めたことだ。通学時間が短いことは、生徒にメリットがあるようにも思える。しかし、学校があまりにも身近となり、緊張感がなくなるせいか、だらけてしまう生徒もいるのではないか?

これまでも受験生の保護者や学校にアンケートを行って通学時間の実態を調査してきた。受験生を持つ保護者へのアンケートでは、志望校の通学時間を平均すると52分となっていた。学校へのアンケートでは、在籍者の平均通学時間は約60分で、実際に入学した学校の通学時間は、志望校の平均通学時間よりも多少長くなることがわかった。
しかし、どれだけ通学時間をかけて通学している生徒がどの程度いるかを調査しても、その結果からは通学時間をどのくらいにすべきかはわからない。せいぜい、どの程度の通学時間が多いかや平均値という実態がわかる程度である。

そこで、難関校・上位校の私立中高一貫校在籍者(以下「在籍者」)の保護者にアンケートを行い、在籍校の通学時間と在籍校が「我が子に合った学校」だったかどうかとの相関関係を調査した。
回答した保護者の数は、通学時間が45分以上60分未満のグループが35%で最も多いが、同時に、そのグループでは、「我が子に合った学校」だと思う保護者の割合も85%と満足度が高い。通学時間は短くなればなるほど良いように思えるが、現実は「我が子に合った学校」とする保護者の割合が減少する傾向があった。45分以上60分未満のグループよりは、保護者の回答数や「我が子に合った学校」だと思う保護者の数では多少減るが、通学時間が60分以上90分未満のグループも満足度が高いようだ。通学時間が90分以上と回答した保護者は、あまりいなかったが、ほとんどが「我が子に合った学校」という回答であった。やはり、どうしても入りたかった学校なので、そのような結果になるのであろう。
志望校をこれから決めるのであれば、通学時間が45分~60分の学校がベターだろうが、少し広げて45分~90分の範囲の学校から選ぶと「我が子に合った学校」が見つかる確率が高いということをこの実態は示している。


※おはなはん
NHK連続テレビ小説として放映されたドラマ。(1966年4月~1967年4月)明るい女性、おはなはんの一代記。

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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