親の力[中学受験]

二番手と呼ばれるある学校から東京大学に入ったケースの一つは、よく事情を聞いてみると、良い意味での「親の力」が影響していた。

「親の力」とはどういうことか、と言うと、両親は大のイギリスびいきで、イギリスの小説や演劇・文化に造詣が深く、本人が中高生の間も、家族でよくこれを楽しんでいたのだが、何といっても英語力は親が勝っていることは見逃せない。
加えて、小学生のころから英語を勉強していたので、学校の英語の試験が全く苦にならないというのである。
友人たちが東大の英語の過去問題集に当たり、「ボリュームがありすぎて時間が足りない」とぼやくのを聞いて、「自分はそのような苦労など全く感じたことがないのでこれはいける」と思ったそうだ。

しかし、英語力だけで東大に合格できるわけではない。
彼の秘密兵器は、両親のイギリスびいきの影響で、「イギリスに留学したい」と強くと思っていて、「そのためには東大の教養学部に進むのが最適だ」と考えていたことにある。

動機付けとしてこれほど強いものはないだろう。
彼にとって東大の教養学部にまさる進路先は考えにくかったのである。
こうして一浪ののち見事に東大文IIIに合格できたのだが、やりたいことが明確なので、最も祝福される合格の仕方であるだろう。
東大進学の動機付けに「親の力」が良い影響を与えた典型ではないだろうか。

一方で高2から受験勉強に入る前は、学校の校風によく馴染んで楽しむばかりでなく、その中高一貫校の英語指導が男子校としては格別に優れていたため、彼の英語好きにピッタリとはまったことも功を奏したようだ。

もちろん、その学校はいわゆる一番手と呼ばれる学校のように進学指導が行われるわけでもなく、東大に行く人数もさほど多くはない。
基本的に進学のテクニカルな勉強は有名塾予備校に通って身に付けたものだ。

しかし、集団の力を借りるのは塾でも可能なので、要は努力をする志の部分をどう生み出せるかが実際の悩みなのだ。

それを学校頼みでなく親の力で導いたところがこのケースのすばらしいところである。
つまり「勉強しなさい」と言うばかりの親の対応が多いなかで、手の打ちようがよく見とおされていて、学校のハンディなどまるで感じさせない。

このように親が家庭の文化に子どもを巻き込んでいくことは、進路選択の強い動機付けになるし、そこに学校のレベルはあまり関係しない。

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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