自由な発想・表現を楽しむ!アート鑑賞で引き出す個性と感性【直島アート便り】

  • 教育動向

ベネッセアートサイト直島では、芸術鑑賞を目的としたものに限らず、さまざまなテーマのプログラムを実施しています。
2023年4月には、「自由な発想・自由な表現を楽しむ」ことをテーマに、直島にて1泊2日の子ども向けワークショップを行いました。子どもたちは直島で何を見て、何を思い、それをどう表現したのでしょうか。今回は2日間にわたるワークショップの様子をレポートします。

この記事のポイント

新しい家プロジェクトを提案しよう

2023年4月に、香川県高松市にある建築設計事務所「ミライクラフト一級建築士事務所」にて開催されている「子ども建築士教室」の生徒さんを中心に、直島にて2日間のワークショップを行いました。

「子ども建築士教室」では、自由な発想でものづくりをしたり、建築の間取りを考えたりすることをとおして、自分らしく想像し表現する力を育むワークショップを行っています。
2021年夏に初回を迎えたベネッセアートサイト直島との共同プログラムは、今回で5回目となりました。(2021年12月に行った豊島でのワークショップはこちら

1日目のワークショップの舞台は、直島・本村地区にある家プロジェクトです。
空き家などを改修し、人々が住んでいたころの時間や記憶を織り込みながら空間そのものを作品化した「家プロジェクト」を鑑賞し、チームに分かれてアイディアを出し合いながら「新しい家プロジェクト」を提案するワークを行いました。

当日は、小学校のふるさと学習で本村について学習してきた直島小学校4年生~6年生の児童にも募集をかけ、4名の児童が参加してくれました。

家プロジェクトの鑑賞では、直島小の児童が積極的に道案内や作品の案内をしてくれました。
気になったことは質問しつつも、作品の意味など、決まった正解のない問いは皆で思ったこと、感じたことを話し合いながら考えます。
新しく知れたこと、気付いたことは積極的にメモをとりながら、じっくりと作品と向き合い、それぞれ自分なりの答えを考えていました。

家プロジェクト「はいしゃ」を鑑賞

最後は家プロジェクトを鑑賞する中で得られたヒントをもとに、チームに分かれて「新しい家プロジェクト」を考え、「プロジェクト提案シート」にまとめて発表してもらいました。

コンセプトから全体の構成を考えるチーム、それぞれの理想を表現して最後に1つにまとめるチーム、建物の外と中で役割分担して作り上げるチームなど、進め方や意見のまとめ方もチームによって個性が出ていました。

また、それぞれが提案した「新しい家プロジェクト」には、外の自然を豊かに取り入れる仕組みになっていたり、島民と観光客の交流拠点としての役割を担っていたり、日本家屋のつくりが見られたり、家プロジェクトを鑑賞する中でそれぞれ印象に残ったであろう部分がよく反映されていました。

自分の考えと他の人の考えを重ねながら表現するという少し難易度の高いワークでしたが、初対面のお友達と作品鑑賞をとおして交流し意見を交わしていくなかで、それぞれのアイディアが結び付いた、1人では思いつかないような発想力豊かな提案ができたのではないでしょうか。

夜の美術館を鑑賞しよう

直島小の児童とお別れし、夜はベネッセハウス ミュージアムを鑑賞しました。瀬戸内海を望む高台に位置するベネッセハウス ミュージアムは、21時まで鑑賞することができます。(最終入館は20時まで。2023年4月時点)

美術館に到着したのはちょうど夕暮れ時でしたが、館内を鑑賞するにつれてだんだんと日が落ちていきました。子どもたちは、建物を巡りながら変わりゆく景色や月明かりの下で佇む作品の印象をスケッチブックに書き留めます。

≪天秘≫にて気付いたことをスケッチブックに描き込む

天井が空に開かれた作品≪天秘≫では風が吹くと空から桜の花びらが舞い落ちてきたり、空が暗くなるにつれて海と空の境界線が曖昧(あいまい)になっていったり、大きなガラスの開口部に館内の作品が反射していたり、訪れた季節や夜という時間帯ならではの特徴を見つけることができました。

夜の直島を楽しめる施設をつくろう

2日目は、前日の夜に鑑賞したベネッセハウス ミュージアムを、太陽光の下でもう1度鑑賞しました。

既に鑑賞している建物・作品でも時間が変わると印象や見えるものも大きく変化します。
≪天秘≫では夜は暗くてわからなかった桜の木が見えたり、夜の闇に紛れて見えなかった作品を見つけたり、空と海の間に島があることに気が付いたり、子どもたちは夜と比較した時の印象の違いを次から次へと記録していきました。

ベネッセハウス ミュージアムは「建築・自然・アートの共生」をコンセプトとしていますが、時間帯を変えて体験することで、建築や作品が周囲の自然と関わり合いながら共存している様子を実感できたのではないでしょうか。

鑑賞を終えた子どもたちは「夜の直島を楽しめる施設」をテーマに最後の表現ワークに取り組みます。海辺を散策する中で見つけてきたものを材料に、さまざまな素材を組み合わせて夜の直島を楽しめる新しい施設を作ってもらいました。

≪南瓜≫をモチーフにオリジナルの作品を手掛けたり、夜の海辺を走るトロッコをデザインしたり、月明かりが差し込むドーム型の天井の建物を作ったり、夜と日中の違いから感じたことや、こんなものがあったらいいなという理想をそれぞれが思い思いに表現していました。

夜と日中の直島、両方を体験したからこそ膨らませることができた想像力を存分に発揮し、自分なりの自由な表現を楽しむことができたのではないでしょうか。

自由に考え、表現すること

2日間のワークショップをとおして、子どもたちは刻一刻と変化する風景やその中で展開する作品を観て、その時感じた自分の気持ちや他の人の考えを大切に受けとめながら、豊かに想像力を膨らませていました。
その結果として表現されたものには、制作する過程でそれぞれが考えたこと、一人ひとりの得意なこと、好きなこと、理想がたくさん詰まっていました。

解放的な自然の中に身を置き、見方に一つの正解がない現代アートとじっくりと向き合うことで、誰かの正解に縛られることなく、自由にのびのびと感性を広げることができたのかもしれません。
自分なりの見方で自由に考え、表現するワークを通じて、それぞれが持つ個性溢れる発想力や表現力を育んでみてはいかがでしょうか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

  • 教育動向

子育て・教育Q&A