アート鑑賞で自分の「問い」に出合う-高校生たちの体験レポート【直島アート便り】
- 教育動向
ベネッセアートサイト直島では、中学生から社会人を対象にしたプログラムの中で、作品鑑賞を通じて「問い」を立てるワークを実施しています。なぜ作品鑑賞が、潜在的な関心事やテーマを表層化するのに有効なのか、2023年1月に実施した岡山操山高校の事例からレポートします。
この記事のポイント
現代アートと対話してみる
ベネッセアートサイト直島では現代アートを中心に展示していますが、現代アートの見方がよくわからない、というかたも少なくありません。まずはワークに入る前に、作品鑑賞を通じてどのように自分の考えをアウトプットしていくのか、ファシリテーターと対話を使って鑑賞する体験を通じて鑑賞方法を身に付けていきます。
作品に向き合った時、自分はどこが気になるか、どんな気持ちになるか、何を連想するかは、鑑賞者によって異なります。さらに、同じ人であっても鑑賞した時の自分のコンディションや季節など周囲の環境に応じて変化することもあります。つまり、その時どのような印象を抱くかを認識することは、自分のことを知ったり周囲の環境に目を向けたりすることに繋がるといえるでしょう。
また、その印象は鑑賞者の記憶や価値観、習慣などと密接に結びついています。ファシリテーターがその印象がどこからきているのかを問うことによって、自分の内面にあるものに気付き考えるきっかけになります。
今日の作品を選んで、第一印象を書き出そう
自分の今の「問い」と出合うワークでは、まず今日の作品を直感で選びます。好きだと思った作品を選ぶ人、あまり好きではないけど気になる作品を選ぶ人、選び方も人それぞれです。不思議に思う、なぜか足が止まる、などどんなきっかけで選んでも構いません。その作品が目に留まったということは、どこかに必ず自分の関心事と繋がるヒントがあると考えています。
次に、選んだ作品のどこが気になったか、どこに着目したか、第一印象をできるだけたくさん書き出していきます。同じ作品を選んでも、人によって焦点を当てる部分は異なったり、そこから抱く印象も違ったりします。中には、「うれしい」「悲しい」などの真逆の感情が一つの作品から表現されることもあり、現代アートの解釈の幅広さによって個人の価値観の多様さにも気付くことができます。
問いのワークに取り組む様子。作品が2次元から3次元に広がっていることに着目し、平面作品で表現することの制約や作品自体の意義への関心をアウトプットした。
作品と対話して「問い」と出合う
最後に、自分が抱いた第一印象がどこからきているのか、作品と向き合いながら根拠を考えていきます。自分の思考プロセスを自らひも解くことで、自分のものの考え方を客観的にとらえることができ、思考の癖や潜在的に関心を持っていることに気付いたり、過去の原体験が思い起こされたりします。
このように、作品から得られた印象と自分の内面にあるものとの繋がりについて考え、さらにその視点をもって今一度作品を鑑賞して何を考えるのか、粘り強く何周も思考をくり返していくことで、自分の今の「問い」を言語化することができます。
生徒のワークシート。「3人のおしゃべりする人」という作品を鑑賞し、最初は内緒話をしているように見えたが向かい合っていないことから、意思疎通が図れていないように思え、対話型鑑賞のように他人の意見を聞き受け入れることの重要さをテーマにした。
岡山操山高校のプログラムでは、個人が設定した「問い」を発表したあと、関心の近いメンバーでグループをつくり、グループごとに取り組みたい課題について話し合いました。3月には、設定した課題を解決するための新しい提案をつくりプレゼンをする2泊3日の宿泊研修も実施しています。生徒たちが直島のアートプロジェクトの体験をとおしてどんなアイディアを考えたかは、後日レポートする予定です。
まとめ & 実践 TIPS
近年の学校教育では、探究学習などで、自分なりの課題を見つける観察眼や、思考力が重要視される場面も多いのではないでしょうか。教科書や新聞に載っているような世の中に既にある問いだけでなく、自分が本当に関心のあることや将来に繋がるテーマを見つけ、積極性と好奇心を持って取り組んでいく経験が、これからの社会を生きていくうえで役立つのではないかと考えています。
ベネッセアートサイト直島では、対象属性やテーマ、滞在スケジュールに合わせ、オーダ—メイドでプログラム設計・実施を行っています。詳しくはお問い合せください。
自分の設定した「問い」を発表する生徒
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