海をのぞみながら悠久の時を感じる—直島の杉本博司作品(前編)【直島アート便り】

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歴史と存在の一過性をテーマとし、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐にわたって活動するアーティスト・杉本博司。ベネッセアートサイト直島では、杉本博司の作品を1990年代から現在に至るまで数多く展開しています。直島アート便りでは、直島にある杉本博司の作品について2回にわけて紹介します。

写真:表 恒匡

この記事のポイント

杉本博司と直島の出合い

杉本博司が初めて直島を訪れたのは、1994年に開催された「Open Air’94 "Out of Bounds"—海景の中の現代美術展—」のときです。この展覧会は、瀬戸内海の風景のなかで、作品と周囲の自然を調和、もしくは対峙させることで、「ここにしかない風景」をつくり出すことを目指しました。

このような企画意図のもと、杉本はベネッセハウス ミュージアムのテラスの壁面に「海景」シリーズ14点を展示します。「海景」シリーズは、世界各地の海の水平線を同じ構図で撮影した作品群で、太古から変わらず存在し続けている海の風景を表現しています。

写真:鈴木研一

展示場所であるテラスの壁は本物の瀬戸内海を挟み込むように立っており、鑑賞者がある地点に立つと、瀬戸内海の水平線と作品の水平線が重なります。直島という小さな島が世界中の海とつながっていることを意識させます。

杉本博司《タイム・エクスポーズド》 © Hiroshi Sugimoto 写真:安斎重男

また、杉本は太陽光や風雨に晒されることで写真が色褪せてゆき、時間の経過が写真に取り込まれていくと考えました。当初は展覧会の会期のみ、展示をする予定でしたが、会期後も展示を継続することが決まり、現在に至るまで展示されています。

作品と環境との対話

のちに杉本はより過酷な自然環境の中に作品を設置します。悪天候時には潮を浴びることもある岸壁に、ベネッセハウス ミュージアムのテラスに展示されているものと同じ「海景」シリーズの作品を設置しました。

杉本博司《タイム・エクスポーズド 南太平洋、テアライ》撮影:渡邉修

岸壁に作品が展示されることによって、通過点にすぎなかった場所を人々が見つめ直すきっかけになり、新たな風景をつくり出しているといえるのではないでしょうか。

神社を作品に

直島の本村地区には、直島八幡神社の境外末社にあたる護王神社があります。17世紀に現在の場所につくられたと伝えられている護王神社は、2000年ごろには老朽化がかなり進み、拝殿の倒壊にまで至っていました。それを、アーティストが空き家などを作品化する「家プロジェクト」の枠組みのなかで、改修し杉本が作品化することになります。

杉本は神社の設計にあたり、伊勢神宮など古代の神社建築の様式を参考にします。巨木や岩、山そのものといった自然に神が降臨するという日本古来の考えを重んじ、護王神社においては拝殿に巨石を配置することを考えます。巨石は重さ24トンの花崗岩で、神が宿るとされる磐座(いわくら)に相当します。

家プロジェクト「護王神社」 杉本博司《Appropriate Proportion》 写真:杉本博司

そして、巨石の下には石室を作ります。日本古来の神社と古墳が同時に存在した時間があったかもしれない、という杉本独自の歴史解釈によって、神道と古墳時代を結びつけるコンセプトを体現します。暗い石室には、本殿とつながるガラスの階段を通して光が差し込みます。

家プロジェクト「護王神社」 杉本博司《Appropriate Proportion》 写真:杉本博司

石室の出入り口からは、瀬戸内海の水平線が見えるように設計してあり、「海景」シリーズに連なる体験をもたらします。

作品をめぐる中で見えてくるもの

2023年、直島にある杉本博司の作品をめぐる「杉本博司作品鑑賞ツアー」を開催予定です。今回紹介した「タイム・エクスポーズド」や「護王神社」のほか、2022年にオープンした「杉本博司ギャラリー 時の回廊」の作品をスタッフとともに鑑賞するツアーです。

海をのぞむことができる直島で杉本博司の作品をめぐる体験は、アーティストの一貫したテーマについてより広い視野を持って深く考えることにつながるかもしれません。

次回の直島アート便りでは、「杉本博司ギャラリー 時の回廊」について詳しく紹介します。

「杉本博司作品鑑賞ツアー」の開催については、ベネッセアートサイト直島のホームページにてお知らせします。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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