ギフテッドと呼ばれる中3。学習における困難を乗り越え、プログラミングの才能を引き出したものとは?

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ギフテッドとは?
突出した才能や高い知能を持つ子どもたちを「ギフテッド」と呼びます。“天から授かった高い才能の持ち主”という意味があり、近年日本でも周知されるようになりました。
知的能力や特定の学問、創造性、芸術性、記憶力など、同年代の子どもと比較して並外れた力を持っていますが、その行き渡り方は様々。全てに才能のあるタイプもいれば、ある才能には突出していながら他の能力はムラのあるタイプも。個人差も多く見られます。

今回はギフテッドと呼ばれる才能の持ち主で、工学とプログラミングを得意とする中学3年生・孫正義育英財団2期生の森下礼智(らいと)さんの親子にお話を伺いました。

小学校6年生の時。不注意研究の発表中

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ディスグラフィアの困難を乗り越えたITの力。ギフテッドと呼ばれる2期生・森下礼智さんのプログラミングの才能を伸ばした親の心得

孫正義育英財団2期生の森下礼智さんは、現在中学3年生。生まれつきの高い才能を持つギフテッドとも呼ばれ、プログラミングと工学の突き抜けた能力を持つ天才です。また同時に、書字への困難=「ディスグラフィア」(読むことには問題がなく、手で書くことだけが難しい症状)をITの力によって克服もしてきました。
ギフテッドと呼ばれる子どもの教育、学校現場における試行錯誤の道のりなどについて、お母様と本人に話を伺いました。

気づくまで時間がかかった「空間認知」の能力

現在はパソコンやタブレット、その他IT機器を駆使し、プログラミングや工学の研究を進めている礼智さん。意外にもお母様が才能に気づかれたのは、幼少期をだいぶ過ぎた頃だったといいます。

「才能と言っても、幼い時期に突然何かができてしまったといようなことはなかったんです。どちらかといえば育てづらかった記憶のほうが残っていて。いわゆる子どもらしい、おもちゃに対する喜びとか、親が期待するような反応がなかったんですね。その代わり、2歳ぐらいの頃に説明書やカタログ、とにかく文字ばかり見ていて。また3歳の頃、ピアノ教室のグランドピアノの構造にも興味を持ちはじめ、レッスンそのものよりも、ピアノの蓋を開けて中を見ることに時間が費やされるようになったんです。私としては親子で連弾できたら楽しいだろうな、と期待していたのですが…」(お母様)

なぜそんなに中身や構造が知りたいのか、長らく理由は分からないまま。それが9歳の頃、建築家・ガウディの本に書かれていた特性を知ったことで氷解。礼智さんには三次元の空間認知、そして映像的思考の高い能力があったのです。

「私がその本の内容に思うところがあり、礼智に『もしかして頭の中で物体を回転できたりする?』と質問したところ、通常見えている景色の他に、頭の中の画面で、そこに物体を浮かべて展開することができる、と。また一目見て建造物の裏側まで把握できたり、景色の中から消すことも自在だと。にわかには信じがたいことでしたが『お母さんは、そう見えないの?』と言われ、ハッとしました。
子どもの才能に気づくには、親の欲目や期待が思い通りにならなかったときが、むしろ契機かもしれないです。そのとき、子ども自身がどんな反応をしていたかが重要かな、と」(お母様)

その能力は今、3DCGのプログラミングに生かされているといいます。

礼智さんの作品

習い事、講座、体験…ありとあらゆる「種まき」をした

お母様は、自身が教員でもあり、家庭教育に力を入れてきました。幼い頃から、数や言葉の基礎学力をつけること。興味を持ったものはなるべく本物に触れること。そして様々な経験に触れさせることの3点を心がけていたといいます。

「『種まき』のように、ありとあらゆるものをやってみました。英語、段ボール工作、乗馬、薫製や蕎麦づくり、山登りも海遊びも。そういうものをやり続ける中で、ピアノの構造に対する興味のように、子どもが強く反応するものがある。あとは好きな本の著者の講演会があったら、連れて行って話を聞いて。思春期に入る前で、小学校高学年の手前くらいまでは講座や体験など、大量の機会に本人を連れ出していました」(お母様)

当時はそれらの予定で手帳が真っ黒になるくらいだったそう。親と一緒に行動してくれる限られた時期だと思い、お母様もめいっぱい楽しむようにしていたそうです。

「たとえ結果がついてこなくても、体験すること自体を目的とすると全部元がとれるんです。これは講座や体験をたくさん繰り返していくうちに気がつきました」(お母様)

プログラミングに自信が持てたコンテスト授賞式

礼智さんのプログラミングとの出会いは小学1年生の春休み。エンジニアの友人家族から、ひらがなで出来るスクラッチの本をプレゼントされたことからでした。ひらがなを使う方法はさほど礼智さんに響かず、しかし言語が英語になったとたん、興味が突き抜けるように芽生えたのだそう。

「一つの手法がダメでも、子どもが嫌いかというとそうではないのかな、と思いましたね。言語がひらがなの時点で諦めていたら、そこで終わっていたな、と。英語も『種まき』をした甲斐がありました」(お母様)

さらに飛躍のきっかけとなったのは、3年生でVRシステムの会社が主催する、国際的なジュニア・ソフトウェア・セミナーコンテストに、電車をテーマにした作品で入賞したこと。200人以上の集まる会場で表彰されたとき、礼智さんの中に「もしかしたらやっていけるかもしれない」という気持ちが生まれたと言います。

小学3年生の時のVR作品表彰式にて

財団を知ったきっかけは、お母様が教育系のネットニュースで一期生の合格を知り、礼智さんに伝えたことから。
当時、同級生とはどうしても興味の範囲が違ったという礼智さんは、財団に入れたら様々な分野の方々と交流ができるのでは、と期待を持ち財団への応募を決心しました。
そして審査を経て、小学6年生で財団2期生として合格。

「財団に入ってからは年齢の垣根で制限されがちだった知的好奇心が、異なる年齢、異分野の財団生の皆さんとの出会いで解き放たれた感じです。人との出会いが本人にとって良い刺激になっているようです。とても楽しみに財団施設に通い、勉強会などにも参加するようになりました」(お母様)

小学校生活におけるディスグラフィアの苦労

パソコンやタブレットなど、あらゆる機器を駆使する礼智さんですが、そもそもは自身の、文字を書くことに困難のある「ディスグラフィア」を補うために使い始めたことがきっかけです。読むことに関しては高水準の理解力がありながら、手で筆記具を使って文字をきれいに書くことが難しいという症状。そこで小学校2年生から、iPadを使って授業のノートをとる方法を取り入れてきたのだそうです。

「小学1年生の頃、何冊ものノートに、限界まで書き取りをしましたが、全く本人の実りに繋がらなかったんです。学校教育は紙と鉛筆の筆記が当たり前の世界ですし、先生方に分かっていただくことにとても苦労しました。そのピークは2年生の頃。担任にいくら診断書を出しても、周囲と同じにできないことを責められてしまう辛い状況で…しかし途中から理解のある先生が担任してくれて、そこから好転しました。パソコンとタブレットは学習の武器ですね」(お母様)

現在通う私立中学はITに理解があり、様々な理由で通いづらかった生徒たちの集う環境は、礼智さんものびのびと過ごせているそうです。

制作のモチベーションは自分の困難から

プログラミングはFusion360、Maya、Unityなど様々な3Dソフトを駆使している礼智さん。将来的には記憶やリハビリに関する、認知の力を上げるようなゲームをリリースしてみたいと考えているそう。また自分のディスグラフィアの問題や、ICT(情報通信技術)に関する本を出版することも目標だそうです。

「ディスグラフィアはまだ認知度が低く、書けないことで大人から怒られる経験が幼少期に多かったから、本を出すことで知ってもらいたいんです。多様性の一つとして理解を深めてもらい、自分の様に誤解される子ども達を減らしたい。制作のベースにはいつも『自分の困難』があります。同じように不注意な人たちの役に立つこと、困っていることなどを、ITの技術で解決できるような開発もしていきたいです」(礼智さん)

近年は、礼智さんのサポートに徹することを心がけているというお母様。
「本人を素直に理解することが大切だな、と。常に味方でいてあげるというか。ディスグラフィアの困難で、自信を無くして元気がなかった時期を支えてきたのもあり、大好きな事を見つけている今、もう元気で幸せそうであればそれでいいと思います。」(お母様)

まとめ & 実践 TIPS

子どもの長所や特性を見つけるには、積極的に多様な機会に触れさせることがポイント。ある程度の長い目で、家庭や習い事などの様々な場での反応をよく見ることも大切です。


孫正義育英財団
未来を創る人材として、「高い志」と「異能」を持った若者の才能を支援するために、孫正義氏によって設立された「孫正義育英財団」。現在は、選考によって選ばれた10歳から28歳まで、計240名のメンバーが在籍。プログラミング、数学、生物学、科学、アートと多種多様な分野の天才たちが活動しています。https://masason-foundation.org

取材・文/畑 菜穂子

プロフィール

森下礼智/もりしたらいと

2007年生まれ。孫正義育英財団2期生。中学3年生。
得意分野は工学、プログラミング。2017年 科学技術振興機構 ジュニアドクター育成塾マスターコース合格、修了。2018年 科学技術振興機構 ジュニアドクター育成塾ドクターコース合格、修了。2019年 公益財団法人 日本科学協会サイエンスメンタープログラム合格、修了。2020年 NHK Eテレ 「又吉直樹のヘウレーカ!『この“なぜ”は ほっとけない!?』」にて忘れものをなくす方法の研究を若手研究者として発表・出演。

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