孫正義氏が設立した「孫正義育英財団」とは? 子どもの優れた才能を開花させる方法を学ぶ
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ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が設立した「孫正義育英財団」を知っていますか?「未来を創る人材の支援」を目標に掲げ、2016年12月に設立されました。
突き抜けた才能=「異能」を持ち、ときにギフテッドとも呼ばれる若き天才たちも集うこの財団。メンバーである子どもたちが、どのように才能を開花させ伸ばしていったのか。その「夢中になれる力」を育てるヒントについて、家庭教育の視点から、財団生の親子にお話を伺いました。
優れた才能を持つ若者を支援する孫正義育英財団とは?
未来を創る人材として、「高い志」と「異能」を持った若者の才能を支援するために、孫正義氏によって設立された「孫正義育英財団」。現在は10歳から28歳まで、世界各国、計240人のメンバーが在籍しています(2021年7月1日現在)。選考によって選ばれた財団生が得意とする分野は、プログラミング、数学、生物学、科学、アートと多種多様。
最先端テクノロジーを備えた活動施設「INFINITY」の提供や、進学・研究・起業などへの支援金提供も行われ、新しい時代に対応できる人材育成の基盤となっています。
「夢は新しい数学の分野を作ること」3期生・梶田光さんの才能を育てた家庭環境とは?
今回インタビューしたのは財団3期生の梶田光さんとお母様の恵美子さん。現在中学1年生の光さんは、小学5年生で数検準1級(高3程度)合格を果たし、英検1級特別賞も受賞。今年4月には数検1級(大学程度)にも合格しています。数字への高い関心を示した幼少期から現在まで、親としてどのように接し、育んできたのか伺いました。
抜きんでていた「数」への興味
梶田家の長男として生まれた光さん。恵美子さんにとっても初めての育児、そして高齢出産だったこともあり、当初は子どもの発達について知らないことも多く、手探り状態だったと言います。
「同じくらいの年齢の子ができることがよく分かっていなかったせいもあって、特に才能を感じるような『これは!』ということはなかったんです。でもとにかく数字が好きで。動き出す頃に数字の描かれたパズルやブロックを与えると、どれだけでも集中してひとりで遊んでくれたので、助かったんですね。試しに1歳のころ、九九のポスターを壁に貼ってみたんです。『読んでくれ』という感じだったので、読み上げたら2歳で9の段まで暗記して。あとは100まで数えて、さらにカウントダウンするというのも覚えていました。実家に帰省した際、目にした両親が『すごい!』って。そこで私も初めて『あ、すごいんだ』と気がついたんです」
幼い光さんの数字に対する強い興味や記憶力に気付いてからは、百玉そろばんや電卓、数字をはめ込むスポンジマットなど、思いつく限りの数字のおもちゃを与えたそうです。
ピアノの習い事から広がった世界
数字のほか、光さんが興味を持ちそうなものは、習い事を調べてどんどん試していったという恵美子さん。陸上や居合の運動系のほか、現在まで続いているのはピアノ。3歳から始めたレッスンでも、光さんは年齢以上の集中力を発揮しました。
「課題で『来週までにこの2曲を弾いてね』と子ども用の楽譜を一冊くださったんですけれど、一週間のうちに一冊全部弾いちゃうんです。それで先生もどんどんと進めてくださって、楽譜を見ないで結構弾けるようになりました」
引っ越しを機に変わった教室ではアメリカ人の先生が担当。英語に触れるきっかけにもなりました。
ピアノを通じて英語にも触れ、光さんの視野がぐんと広がるのを感じたそうです。
小学1年生からは近所の英語教室にも通い始め、ますます英語への理解も深まったそう。中にはバレエなど、身体的にキツく続かなかったものもあったそうですが、我が子が興味を持ちそうなものはとりあえず体験させてみる、そんな姿勢が大切であることが分かります。
数学への興味のきっかけは一冊の洋書
幼少期から数への強い興味を持っていた光さんが、数学というものにより本格的な関心を示したきっかけは、恵美子さんが買ってきた一冊の本でした。
「小学校1年生のときに『Mathematics 1001』という数学の洋書を与えてみたんです。まだ英語がよく分からない頃だったから、余計に知りたい気持ちが強まったみたいで。さっそく辞書を引いて調べ始めて、それが楽しくなってしまって。ぐっと数学に対する真剣味が増しました。英語教室の先生が『Mathematics 1001』を教材としてとりいれてくださったことも大きいですね。」
それからますます数学に傾倒していった光さんは、あるとき「ミレニアム懸賞問題」(アメリカのクレイ数学研究所が2000年に発表した、7つの数学問題。それぞれ100万ドルの懸賞金がかけられている)が解けたかもしれない、と両親に告白。いわゆる未解決問題の光さんの回答を前に、これは専門家にみてもらなくてはと、先生を探し始めました。
「数学研究家の宮本憲一先生という方に、『ミレニアム懸賞問題』を解いたことと、新しい数式を作ったから見てもらいたいと言って。そうしたら驚かれて…とはいえその問題自体は全然解けてはいなかったんですが(笑)。結果として宮本先生の先生である、飯高茂先生をご紹介いただくことになったんです」
代数幾何学のリーダーとして世界的に知られる数学者の飯高茂先生、そして宮本先生との繋がり。先生方の勧めもあり、光さんは10歳で孫正義育英財団の扉を叩きました。
不登校の悩みよりもワクワクが大きい日々
現在、光さんは中学受験を経て学校へ通う日々。そして秋には、課外活動により力を注げるオンラインスクールへ転校する予定です。
ただ小学校時代は、勉強の進度が合わず結果として途中から不登校に。3年生頃から進度の合わない教科は、小学校の空き教室で恵美子さんが付き添って学習。学校行事や体育の授業などはできる限り参加していましたが、その様子を校長先生や教育委員会に理解してもらい、4年生頃ホームスクーリングの形をとることになりました。
「先生方はすごく理解がありましたし、同級生とも仲は良かったんです。けれども光はやりたいことがありすぎて時間が足りない、そんな感じになってしまった。だから復習や宿題をこなす時間を、とにかく自分の好きな勉強に費やしたい思いが強かったという感じです」
それは数学だけではない分野にも、より興味が広がっていったからだそう。
「初めは数学だけの関心だったところに、宇宙やプログラミングへの興味も加わって、とにかく時間が足りないと。何か思いつくと夜中までパソコンに向かう日々が続きました。その様子を『早く寝なさい』と叱るのもどうかと思い…そうこうしているうちに、小学校に通う生活が合わなくなってしまいました」
光さん自身のやりたいことと、小学生としての生活時間のズレ。意欲を尊重した選択としてのホームスクーリングとはいえ、不登校状態であることを「教育の機会を奪っている」と非難されることもあったといいます。
「そういう言葉に触れてつらい思いをしたこともあるんですけれど…よく〝ギフテッドの苦悩〟みたいに取り上げられますが、うちの場合はそれよりもワクワク、楽しいことがどんどん出てくる!というような感じで。だから苦しみのようなものはそんなになかったですね。やればやるほど成果が出るのが親としてもとても楽しくて、この子はどこまで行くんだろう、という気持ちで見ていました」
柔軟な考え方で光さんの才能と生き方を受け止め、対応していった恵美子さん。真面目な気質である光くんのお父様とは、学校に行かないことで何度も喧嘩になったそうですが、途中からは協力的になってくれたそうです。
財団生になって広がった可能性
最先端機器や、一般的には手を出しづらい専門書の購入など、財団生がやりたいことを支援するのも孫正義育英財団の特徴です。
「我が家は普通のサラリーマン家庭なので、光のために高性能なパソコンを買うのはとても無理でしたが支援していただいて。買っていただいた専門書もとても役立っています。財団生になったことで可能性がいっそう広がった感じです。今年の4月には、財団1期生の菅原響生さんにアドバイスいただき、数検1級に合格することができましたし、飯高茂先生と共著論文を書き、数学の月刊誌(『現代数学』)に2度ほど掲載されました。」
4期生の武藤熙麟さんにも指導していただき、「2021年 ロボカップジュニア日本大会」にて2021 World League Rescue Simulation 第3位を獲得するなど、数々の入賞も。
このように数学や科学、宇宙など様々な分野で活躍している財団生との横のつながりにより、刺激を受けることも多いそう。現在はオンラインではありますが、多様なジャンルのイベントが催され、ときには研究発表の場も設けられています。
天才たちそれぞれが持ち寄る知性が共鳴し、切磋琢磨され、新しい時代への布石となるのです。
将来成し遂げたいのは「数論やグラフ理論などにならぶ、新しい数学の分野を作ること」と話してくれた光さん。にこやかに語る様子からは、未来を創る高い志が感じられました。
まとめ & 実践 TIPS
家庭教育として「その時々でできることは精一杯やってきた」と語った恵美子さん。子どもの才能の開花に寄り添うように、ときに自分自身も一緒に楽しみながら、柔軟にバックアップを続ける姿勢はぜひ見習っていきたいものです。
孫正義育英財団
https://masason-foundation.org
取材・文/畑 菜穂子
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