プログラミングコンテストで活躍する小6生を成長させた、モンテッソーリ教育と両親それぞれのよりそい力【孫正義育英財団】
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未来を創る人材として、「高い志」と「異能」を持った若者の才能を支援するために、孫正義氏によって設立された「孫正義育英財団」。現在は、選考によって選ばれた10歳から28歳まで、計240名のメンバーが在籍。プログラミング、数学、生物学、科学、アートと多種多様な分野の天才たちが活動しています。
突き抜けた才能=「異能」を持つ子どもたちは、どのように能力を開花させ伸ばしていったのか。その「夢中になれる力」を育てるヒントについて、家庭教育の視点から、財団生の親子にお話を伺いました。
天才キッズが集う「孫正義育英財団」に潜入!数学に夢中な中1は、家庭でどう開花したのか?
才能を開花させたプログラミングとの出会い。4期生・齋藤之理さん一家の考える教育とは?
孫正義育英財団4期生の齋藤之理(ゆきまさ)さんは、プログラミングコンテストに連続出場しその全ての回において受賞経験を持つ小学6年生。プログラミングを筆頭に数学、物理も得意とし、興味を持った分野には「めげずに挑戦し続ける」という之理さんと、そのご両親にお話を伺いました。
小学生プログラマー、ファイナリストの栄冠を続けて受賞
小学生のための国内最大のプログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix」に3年生からチャレンジ、当時史上最年少で決勝大会進出を果たした之理さん。第一回の2018年より3年連続出場、ファイナリストに輝いた経験を持つ、プログラミングの若き天才です。
之理さんの才能はどのように開かれていったのでしょうか。
「初めてプログラミングに触れたのは4歳ぐらいでした。たまたま近くにあったプログラミング教室で、一日だけのワークショップへ之理を行かせてみたら、思いがけずハマって帰ってきたんです。内容はiPadでやる『scratchジュニア』(子ども向けのプログラミングアプリ)で絵本を作るというものでした」(お父様の実さん、以下実さん)
他の習い事もいろいろ試してみた中、すっかりプログラミングに夢中になった之理さん。
「その後は独習で、厚切りジェイソンさんの『Why!?プログラミング』というEテレの番組に夢中になり、scratchジュニアをずっとやっていましたね。」(お母様の真理子さん、以下真理子さん)
之理さんの興味はとどまることを知らず、小学2年生で行った体験教室をきっかけに、本格的なプログラミングスクールに通う生活がスタート。入ってからはこれまで以上にのめり込み、その才能を発揮し出したそうです。スクールから出される課題のほかにも、両親と選んだ子ども向けの解説書をかたわらにプログラミングの学習はぐんぐん進んでいきました。
これまでに作った代表的なものは、数学や物理をテーマにしたものです。素数と合成数を仕分けして遊ぶゲーム『素数の世界』は、素因数分解の表に頼らず、その都度、素因数分解するコードを書いたのものです。原理的にはいくつまででも計算できるのがポイントです。
また、フラクタル図形を森に見立てて探検するゲーム『フラクタルの森』は、再帰的定義を使ってシンプルで短いコードを使っているのが特徴。これも、原理的にどこまでも細かくフラクタルを描くことができます。この『フラクタルの森』は財団の選考過程でもプレゼンした作品でもあります。
他にも宇宙船を周回起動にのせるシミュレーションゲーム『Gravity Travel』では、万有引力の作用と運動方程式を考えて開発しました。
素朴な疑問も噛み砕いて教わる、知識が広がる
幼い頃からプログラミング以外にもスポーツや音楽など、両親がいろいろなことを体験させてくれたと話す之理さん。その中でも之理さんの興味を伸ばしたのは、他でもないお父様の実さんとの日々のやりとりでした。
実は実さんは、中高一貫校で教鞭を執る職歴30年あまりの理科の先生。それゆえに我が子の素朴な疑問にも、本気で答え続けたと言います。
「昔から僕が何か質問すると、すぐに答えてくれて。幼稚園の頃に『大豆から豆腐ができます』って話を聞いて、どうして大豆が豆腐になるの?ってパパに聞いたんです」(之理さん)
「そしたら幼い之理に、にがり(塩化マグネシウム)の化学式を書いて説明し出したんですよ(笑)ちょっとやりすぎかなって思ったんですけど、之理もそれについていくようになって。理科以外にも興味を持ったことに関しては、かなり本気でやっていましたね」(真理子さん)
「どんな質問でも、聞かれたことにはちゃんと答えようと思っていました。難しいことを尋ねられても、子どもがすぐに分かるかどうかということもあるんですけど、それはまず置いておいて。興味を持ったことは一緒に調べて、しっかり向き合っていこうと」(実さん)
実さんの専門的な答えからさらに発生した疑問にも、一つ一つ噛み砕いて説明してくれたことが嬉しかったと話す之理さん。この経験の積み重ねにより、之理さんは調べることの基礎や楽しさを身につけていきました。
動作がゆっくり、集団生活への適応に苦労
そんな之理さんですが、両親から見て心配事もありました。それは「時間の使い方」でした。
「幼稚園はモンテッソーリ教育のところに通っていたんです。モンテッソーリ教育って『早く早くって言わない』という姿勢をモットーのひとつとしているんですけれど、それを持ってしても言われてしまうくらい、之理はマイペースなんです(笑)。普段の動作がとてもゆっくりしていて。結局幼稚園に行っても、”お仕事”(モンテッソーリ教育における普段の活動。いろいろな”お仕事”から自分の好きなものを選ぶ)に取り組めず、着替えをしてランチを食べたら帰りの時間になってしまうことがほとんどで」(真理子さん)
とはいえモンテッソーリの幼稚園では、注意はされこそ、そこまで悩ましく思うことはなかったそう。ただ環境が小学校に移り変わったときに、学校のペースについていけないことが多くなりました。
「新入生の頃はとにかく集団生活についていけなくて大変でした。相変わらずゆっくりで、着替えも間に合わない。でも2年生のときに、ご自分のお子さんをモンテッソーリ教育で育てた経験のある先生がついてくださって。焦らせないことを理解していただき、そこから少しずつ学校生活に馴染めるようになっていきました」(真理子さん)
「人と比べない」「なるようにしかならない」の心構えで見守っていたと語る真理子さん。
「本格的にプログラミングを始めて賞をもらうようになってからは、周りも認めてくれて。それで本人も自信がついて、うまく回るようになったのかな、とは思いますね」(真理子さん)
名詞で限定しない将来の夢
財団を知ったきっかけは、出場したコンテスト「Tech Kids Grand Prix」の会場に財団の方が来ていたことからです。そこから興味を持ち、財団生に応募してみようと思ったそうです。二度のチャレンジで選んでいただき、財団生となってからは財団の支援金とプログラミングコンテストの賞金でハイスペックなパソコンを購入。以前にも増して作業が捗り、3Dのシュミレーターなど、データ量の大きい作業もスムーズにできるようになりました。
之理さんの身近な目標は、毎年応募しているプログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix」に今年も出ること。今はそのためのプログラミングの完成に力を注いでいます。
将来の夢について尋ねると「僕は、科学の本は片っ端から読んでみて、それによって何ができるんだろうなって結構考えてきました。自分は、もう十分科学からの恩恵を受けてきていると思っているので、これからは数学とか科学の基礎研究をして、みなさんのお役に立てたらと思うんですけど、まだ具体的にはそこまで、という感じです」という之理さん。
これについては真理子さんの考えもあるようです。
「将来を何か具体的な名詞で表現してしまうと、まだこの年齢でもあるし、夢も限定されてしまう。これからまだまだ新しい職業も出てくるだろうし、今知っている語彙の中の立場に当てはめなくてもいいのかな、と親としては思います。これからどんな世界になっても生きていけるように、そして自分の興味や関心を全うして生きていけたらいいと願っています」(真理子さん)
夢はあえて言葉で限定しない。そんなおおらかな気持ちが子どもの未来の才能を、タフに育んでいくのかも知れません。
まとめ & 実践 TIPS
之理さんの天才的なプログラミングの才能にも、日常生活におけるつまずきへも、できる限りの余裕を持って接しているご両親。まずは心がけとして、我が子を「他者と比べないこと」から始めてみてください。
孫正義育英財団
https://masason-foundation.org
取材・文/畑 菜穂子
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