『新型コロナワクチン』 学校での集団接種を推奨しない理由

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新型コロナウイルス感染症をめぐって、ワクチンの接種年齢が拡大したことにより、「子どもには、学校で集団接種をすればよいのでは?」と考える保護者もいるかもしれません。
しかし国は、「推奨しない」との考えを示しています。どういうことでしょうか。

この記事のポイント

保護者への説明など理由に

ファイザー社製ワクチンの接種年齢が16歳以上から12歳以上に引き下げられたことを受けて、中学生や高校生への接種が現実味を帯びてきました。
しかし、中高生を対象にしたワクチンの学校集団接種について、文部科学省と厚生労働省は、都道府県教育委員会などに「推奨しない」との考えを伝えました。子どもに対しても、大人と同様、市町村が特設会場を設けて進めている集団接種や、医療機関等での個別接種を想定しています。
その理由として、▽保護者への説明の機会が乏しくなる▽個人の意向が尊重されず、同調圧力を生みがちになる▽接種後の体調不良に対する、きめ細かな対応が難しい……などを挙げています。

市町村判断の場合も慎重さ求める

ただし、地域の事情により、市町村が、その必要性があると判断した場合には。学校集団接種が可能だとしています。
その場合も、▽生徒や保護者への情報提供を十分に行い、16歳未満の生徒の場合は、保護者の同意を求めること▽接種の有無で、差別やいじめなどが起きないよう、生徒への指導や保護者の理解を促すこと▽市町村が差別やいじめなどについての相談窓口を設けること……など、慎重な対応を求めています。
さらに、接種は授業中ではなく、放課後や休日などに実施し、ワクチン接種を生徒の行事参加の条件にしないなど、接種の強要を防ぐ対策を示しています。また、これにより、学校運営や教職員の業務に過度の負担がかからないよう、留意点を示しています。

ジレンマの中で配慮すべきは

現在、子どもが新型コロナに感染したり、濃厚接触者となったりした場合、学校には登校できません。クラスターの発生を防ぎ、子どもたち全体の命を守ることを優先するためです。
授業や部活動、行事に、さまざまな制限が続く中、「ワクチン接種が済めば、自由にできるのに」という期待も高まるかもしれません。
しかし、生徒や保護者の個人の判断が尊重されず、接種していない生徒が不当な扱いをされれば、いじめや差別につながるようなことにもなりかねません。
その一方、感染が拡大しないよう、完全に学校をストップさせたり、活動の自粛を続けたりすれば、かえって子どもたちの心身にストレスが掛かるのは、昨年の一斉休校の経験からも明らかです。

まとめ & 実践 TIPS

こうしたジレンマとも呼べる状況にあっては、さまざまな理由によって接種をできない人や、望まない人などの少数者を排除しないよう、慎重な配慮が必要です。同時に、オンラインによる授業や面談など、感染防止対策と教育活動を両立させる取り組みを、学校の「新しい日常」として定着させていくことも、求められるのではないでしょうか。

(筆者:長尾康子)

※ 初中教育ニュ-ス(初等中等教育局メ-ルマガジン)第415号(2021年6月25日)【課長コラム】子供達の健やかな学びのために 学校における集団接種について
https://www.mext.go.jp/magazine/backnumber/1422844_00051.htm

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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