拾ったどんぐりを育て、山を再生させる!思い通りにならない自然とむきあう、直島の挑戦【直島アート便り】
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子どもたちがどんぐり拾いに熱中する秋がやってきました。たくさん集めたどんぐりで工作をしたり、おままごとをしたりするのも楽しいものですが、今年は土に植えて育ててみませんか? どんぐりの種まきはとても簡単です。いろんな種類のどんぐりがあれば、発芽させて葉っぱの形の違いを楽しむこともできます。秋の自然を散策しながら、植物の成長や環境保全についてお子さんと一緒に考えてみませんか? 今回は、直島で行っている自然再生の取り組みを、環境保全の事例としてご紹介します。
島内で子どもがみつけたどんぐり
豪雨で大きく崩れた山の斜面を再生させるために! 植物の成長によって、島本来の自然を取り戻す長期プロジェクト
昨今、日本各地で台風や地震などの自然災害が相次ぎ発生しています。瀬戸内海に浮かぶ直島もまた、自然災害によって、海を見下ろす法面(※1)が大きく崩落する被害を受けました。その災害への対処法として、直島で約30年間活動を続ける「ベネッセアートサイト直島」がとったのは、島本来の自然を取り戻し、次世代につなぐための挑戦でした。
※1:法面(のりめん):切土や盛土により作られた斜面
直島の南部は、日本で最初に国立公園に指定された「瀬戸内海国立公園」に含まれます。エリア内にある「ベネッセアートサイト直島」の美術施設は自然公園法に則り、その自然景観を活かすように建てられています。そのひとつである美術館とホテルが一体となった「ベネッセハウス」に隣接する法面が、2017‐2018年に西日本を襲った豪雨や台風によって大きく崩れるという被害を受けたのです。
2018年9月、崩落後の法面。岩盤の地がむき出しになり、さらなる崩落の可能性もある危険な状態
修復対策会議では、費用や工期が削減できるコンクリートで覆うなど、さまざまな方法が検討されました。その中で最終的に選択されたのは、直島由来の植物の種を使って再生を試みるという方法でした。SDGs(Sustainable Development Goals)が掲げる17の目標のひとつに「15.陸の豊かさを守ろう」がありますが、「ベネッセアートサイト直島」では被災以前から、景観を整えるために「本来ある自然の姿をできる限りいかしていく」という方針を重視していました。だからこそ、コストや時間がかかったとしても、島本来の自然を未来につなぐための方法が選ばれることになったのです。
直島の固有種を育てるために! 大人も夢中になる種とり作業
まずは、植物が水分や養分を摂ることができるような植栽基盤となる地を作ります。その地を作る土の中に直島由来の種を混ぜることで、いずれは樹木や草が根を張り、崩落した法面が緑で覆われて本来の山の形を取り戻していく、という計画を立てました。そのためには、たくさんの種が必要となります。
そこで、災害から3か月が経った2018年11月に直島で働くスタッフらによる種採りイベントが企画されました。専門家のアドバイスを受けながら、島固有の植物を採取した後、ひとつひとつ手作業で種を取り出しました。種類ごとに種の付き方や採取の難しさが違うため、お互いにコツを教え合いながら、あちこちで笑いも起こる楽しい時間を過ごしました。集められた種は約30種類。後日、その種が法面の植栽基盤の土に丁寧にまかれました。
直島で働くスタッフが一丸となって、種を探して地づくりへ
思い通りにはならない自然と向き合いながら、創意工夫を
種をまいてから約2年が経ちました。もともと法面は保水性が弱く植物が育つには厳しい環境で、猛暑が続いたこともあり、残念ながら、2018年にまいた種は思うようには成長していません。そこで、同時に実験を進めていた「ハウスで育てた苗木」の利用を検討するなど、試行錯誤しながら、島由来植物を活かせる方法を研究しています。ゆくゆくは、島由来の種が芽を出し、木や森へと育っていってほしいと願いながら、長い時間をかけて自然再生の活動を続けていこうとしています。
「ベネッセアートサイト直島」がめざしているのは、“Benesse(よく生きる)”を体感する場所を創造することです。ここを訪れたかたが、自然環境を含めて何かを感じ、考えるきっかけとなるような場所でありたいと考えています。直島のアートの多くは自然とともにあり、自然とともに変化していきます。“自然との共生”という考え方を第一に、直島が本来もっているものをそのままいかし、次の世代につなげていくために、これからも未来に向けた自然再生への取り組みは続いていきます。
ハウスで育成中の島由来植物
植物の成長を通じて、お子様の観察力も伸ばせる
お子様がどんぐりの種まきをした後、なかなか芽が出なかったり、水をやりすぎたりして根腐れすることもあるかもしれません。トラブルがあったときこそが学びのチャンスです。「どうしてかな」「公園ではどうなっているんだろう」「何を変えたらうまく行く?」など、植物について考えることを通して、自然や身の回りにあるものを観察する力を育てるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
出典:サステナブルな社会へfrom Benesse
https://www.benesse.co.jp/brand/category/with-region/20191219_1/
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