進んできた私立学校の耐震化 地域格差も問題に

子どもたちが通う学校は、安全で安心な場所でなければなりません。中でも欠かせないのが、地震に対する備えです。文部科学省の調査によると、2016(平成28)年4月1日現在で、幼稚園(幼保連携型認定こども園を含む)から高校までの私立学校の耐震化率は86.4%となり、前年度より2.9ポイント増加しました。少しずつですが、着実に私立学校の耐震化は進んでいるようです。その一方で、課題も明らかになってきました。

幼稚園と高校に遅れ

調査によると、私立学校の耐震化率は、幼稚園が86.6%(前年度83.8%)、小学校が97.0%(同96.4%)、中学校が94.6%(同92.3%)、高校が84.4%(同81.1%)、特別支援学校が100%(同100%)などで、私立学校全体では86.4%(同83.5%)となっています。いずれの学校種でも、わずかずつですが、私立学校の耐震化は着実に進んでいるようです。

ただし、公立学校の耐震化の状況を見ると、2016(平成28)年度は、幼稚園が91.0%、小中学校が98.1%、高校が96.4%などで全体では97.6%となっており、校舎などの耐震化がほぼ完了した状況です。これに比べると、私立学校の耐震化はやや遅れているといえるかもしれません。

私立小中学校の耐震化は、ほぼ公立と同じレベルまで進んでいますが、全体の足を引っ張っているのが、依然として8割台にとどまっている幼稚園と高校の耐震化率の低さです。これが私立学校の耐震化の中の大きな課題の一つといえるでしょう。このうち幼稚園は、公立よりも私立の数が多いことが、耐震化の遅れの背景として挙げられます。幼稚園は他の学校種と異なり、比較的に規模が小さく、耐震化のための経費負担が重いという事情もありそうです。ただ、幼稚園の数が圧倒的に多い東京都の私立幼稚園の耐震化率は93.5%なのに対して、東京よりも幼稚園数が多い大阪府の耐震化率は83.7%にとどまっているなど、地域による格差も大きいようです。

「非構造部材」の対策も必要

私立学校の耐震化の一環として、今後の大きな問題になっているのが、窓枠や天井など「非構造部材」と呼ばれる部分の耐震化です。熊本地震でも、校舎自体は無事だったにもかかわらず、非構造部材に大きな被害が出て、避難所として利用できなかった学校がありました。

現在、公立小中学校の非構造部材の耐震対策実施率は71.1%にとどまっており、これはこれで大きな課題となっています。しかし私立学校を見ると、耐震対策実施率は、幼稚園が58.8%、小学校が57.6%、中学校が57.8%、高校が52.2%、特別支援学校が53.8%で、いずれも6割以下というのが実態です。校舎などの耐震化にほぼめどがついてきたことを受けて、今後は非構造部材の耐震対策が大きな課題となりそうです。

一方、私立大学・短期大学などの耐震化率は88.8%(前年度87.6%)となっています。高校以下の学校種よりも耐震化率は高いものの、大学生などの約7割が私立大学・短大に在籍していることを考えると、この耐震化率は満足がいくものとはいえません。私立大学・短大の耐震化対策も早急に完了する必要がありそうです。

※平成28年度私立学校施設の耐震改修状況等の調査結果について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/11/1379511.htm

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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