私立学校の耐震化、順調に進む一方で課題も

文部科学省の私立学校施設の耐震改修状況調査で、私立学全体の83.5%が耐震化を完了したことが明らかになりました。公立学校に比べて対応の遅れが指摘されていた私立学校ですが、施設の耐震化は順調に進んでいるようです。その一方で、天井や窓枠など「非構造部材」と呼ばれる部分の耐震対策が遅れを見せており、私立学校の耐震化の重点は、施設から非構造部材へと移っていくことになりそうです。

  • ※私立学校施設の耐震改修状況等調査結果の概要(幼稚園~高等学校)
  • http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/006/1259295.htm

私立学校の耐震化、順調に進む一方で課題も


調査は、2015(平成27)年4月1日現在で、幼稚園(幼保連携型認定こども園を含む)から高校までの私立学校の状況をまとめています。それによると、私立学校全体の校舎や体育館などの施設の耐震化率は83.5%で、前年度より2.9ポイント上昇しました。幼稚園から高校までの公立学校の耐震化率は95.1%ですので、それに比べると遅れがあります。しかし、2014(平成26)年度に初めて耐震化率が8割を超え、15(同27)年度は耐震化率がさらにアップしていることから、私立学校施設の耐震化はほぼ順調に進んでいるといってよいでしょう。

学校種別に施設の耐震化率を見ると、幼稚園が83.8%(前年度81.0%)、小学校が96.4%(同94.5%)、中学校が92.3%(同91.0%)、高校が81.1%(同77.9%)、中等教育学校が98.3%(同96.7%)、特別支援学校が100%(同94.6%)となっており、高校で初めて8割を超えた他、特別支援学校は耐震化を完了しました。古い耐震基準で建てられた1981(昭和56)年以前の施設に対する、耐震診断実施率は76.3%(前年度71.6%)となっています。

幼稚園から高校までの私立学校の耐震化率を都道府県別に見ると、高いところは静岡県96.8%、秋田県96.0%、三重県95.0%、東京都93.7%、愛知県92.6%などで、東海地震などが予想される地域が高いようです。逆に低かったのは、沖縄県63.3%、岡山県65.7%、広島県71.3%、愛媛県72.2%、青森県と山形県が各72.3%などでした。

一方、天井・照明器具・外壁など施設に付属する「非構造部材」と呼ばれる部分も大きな地震の際に落下や脱落などをする危険性があります。幼稚園から高校までの非構造部材に関する耐震点検の実施率は65.7%、私立学校全体の耐震対策実施率は50.2%でした。公立学校(小中学校のみ)の耐震対策実施率は64.5%ですから、私立学校はやや遅れているといえるでしょう。この他、地震で落下の危険性があるつり天井がある体育館などで、落下防止対策が未実施のところは1,204棟あり、屋内運動場全体の25.0%に上っています。大規模な事故につながる可能性もあるため、早急な対策が望まれます。

文科省は、私立学校施設の耐震化と同時に、非構造部材の耐震対策でも補助金などの充実を図ることにしています。今後、私立学校でも校舎など施設の耐震化から非構造部材の耐震化対策へと徐々に重点が移ってくことになると思われます。

いずれにしろ、子どもの安全という面では、公立学校も私立学校も区別はありません。学校の耐震化は公立学校の状況が大きな注目を集めがちですが、私立学校の耐震化の推進も重要な課題であるといえるでしょう。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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