「耐震化率9割突破」の陰に地域格差 依然残る危険校舎‐斎藤剛史‐

全国の公立小中学校の校舎などのうち92.5%が耐震化されていることが、文部科学省の調査でわかりました。しかし、依然として耐震化されていない校舎などが多く残っているほか、それが一部の地方自治体に集中していることも判明しました。耐震化の遅れている自治体の早急な対応が望まれます。

2014(平成26)年4月1日現在の公立学校施設の耐震化率は、幼稚園が83.6%(前年度79.4%)、小中学校が92.5%(同88.9%)、高校90.0%(同86.2%)、特別支援学校96.5%(同94.6%)となっており、小中学校と高校では初めて耐震化率が9割を超えました。このうち、最も施設数の多い小中学校を見ると、建物の耐震化は進んでいるものの、耐震化されていない建物が8,956棟も残されています。その内訳は、震度6強の地震で倒壊または崩壊の危険性が高い建物が1,254棟、倒壊または崩壊の危険性がある建物が6,080棟、耐震化診断未実施が1,622棟でした。文科省は倒壊の危険性の高い1,254棟について、早急に対応する必要があるとしています。公立小中学校の耐震化率の高い都道府県は、愛知県99.6%、静岡県99.5%、東京都99.3%など、逆に低い都道府県は、広島県76.8%、愛媛県80.3%、山口県と福島県各80.8%などとなっています。

文科省は、2015(平成27)年度中のできるだけ早い時期にすべての公立学校施設の耐震化を完了するという目標を掲げています。ただし公立小中学校の場合、耐震化の責任は学校設置者である市町村にあります。そして問題は、市町村のうち4割以上の自治体が公立小中学校の耐震化を完了できていないということです。文科省は、耐震性のない公立小中学校の建物を100棟以上抱えている自治体として、大阪府東大阪市212棟、広島県福山市173棟、岡山市170棟など8市の名前を挙げています。さらに文科省は、耐震化の進展が遅い118市町村に対して、下村博文文科相名で公立学校の耐震化を推進するよう要請する書簡を送りました。
一部市町村で耐震化が遅れている理由は、当該地域に地震が少ないなど危機意識の低さ、財政難による予算や人手の不足などが挙げられます。文科省は公立学校耐震化のための補助金を増額していますが、自治体の負担分がねん出できないところが少なくないようです。また、少子化による学校統廃合問題も足かせになっていると指摘する声も一部にあります。将来廃校を計画している学校に多額の経費をかけたくないということのようです。
現在でも子どもたちが毎日学校にいることに変わりはありません。安全のためにも、耐震化の推進が強く求められます。文科省調査は、福島県の一部を除くすべての市町村の耐震化率を掲載していますので、保護者などは確認しておくことも必要でしょう。

このほか、公立小中学校の体育館など3万3,703棟のうち6,422棟に地震で落下の恐れがある「つり天井」が設置されていますが、安全対策が取られたのは200棟だけで、残り6,222棟は対策未実施であることがわかりました。体育館などの天井落下は大きな事故につながりかねないため、こちらの対策も急がれるところです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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