吉原由香里さん(囲碁棋士) 「考える力」を養った父との関係
漫画『ヒカルの碁』の監修、東京大学特任准教授として「囲碁で養う考える力」の授業も担当するなど、幅広く活躍している囲碁棋士であり、3歳になる男の子の母親でもある吉原由香里さん。本気でプロを目指したきっかけとその後の転機、ご自身の子育てと「考える力」について伺った。
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大学3年生の時に、父が亡くなりました。それまでは父の期待が重く、どこか囲碁を「父にやらされている」思いがありました。その父がいなくなって初めて「私が本当にやりたいことはなんだろう」と考え始めたんですね。1年ほどかけて、自分の心と向き合ううちに「やっぱり、プロになれたらうれしいな」と。神様がもしいるとして、今までの自分をプロにさせたいだろうかと考えてみたら「させたくないな」と。だったら、神様が見てもプロにふさわしいと思われるだけの努力をしよう、それができたら自分をほめてあげよう、そのうえで結果が不合格なら、潔くあきらめようと思いました。
強くなるために必要な勉強をすべてし、対局で力が出しきれるようコンディションを整えることに集中しました。母が「あんなにがんばっているのだからプロになれますように」と、毎日神社にお参りしてくれていたことをあとになって聞きました。結果は、ぎりぎりでの合格でした。もちろんうれしかったのですが、「もう試験を受けなくていいんだ」という喜びも大きかったですね。
結婚して、長男が生まれてから、人生観が変わりましたね。今はのんびり、生活を楽しみたいと思っています。子どもと一緒にゆる~い時間を過ごすうち、以前のような「絶対に負けない!」という闘争心を燃やすことが難しくなっています。その一方で、囲碁は純粋に自分と向き合える大切な時間だと感じるようになりました。今になって「この子はすごい子だ」と迷いなく信じてくれた父には感謝しています。「信じてもらっている」ことを無意識に感じていたからこそ、今の私があるのだと思います。
出典:吉原由香里さん(棋士)が語る、「考える力を育てる」【後編】 -ベネッセ教育情報サイト