抽象的思考とは?小学生からできるトレーニング方法も紹介

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「抽象的思考」という言葉を聞いたことはありますか? 抽象的思考は、本質の理解を深める大切な考え方です。小学校高学年ごろになると、抽象的思考力の発達に伴い、学習内容も具体的なものから抽象的なものへと変わっていきます。

今回は、「一般社団法人 教育デザインラボ」の代表理事を務められている石田勝紀先生に、抽象的思考力の重要さや抽象的思考のトレーニング方法について、お話を伺いました。

この記事のポイント

抽象的思考とは? 具体的思考との違いも

抽象的思考と具体的思考とは?

「抽象的」とは、「事物の共通点に着目し、一般的な概念(大まかな意味や内容)でとらえること」です。そして、その考え方を「抽象的思考」といいます。抽象的思考は、早いと小学校高学年ごろから身に付き始め、中学3年生ごろにグンと伸びるといわれています。

一方、抽象的思考の反対にあるのが「具体的思考」です。

山を例にして、わかりやすく説明しましょう。
地上で見ると、建物は細かくはっきり見えます。しかし、山に登って頂上から地上を見ると、「あの辺は工場地帯」「その辺は住宅街」のように、ざっくりとアバウトに見えるでしょう。この時、前者を具体的、後者を抽象的といいます。

つまり

・はっきりした状態が具体的
・ぼやけている状態が抽象的

になります。

他にも……
「クジラの中から大量のプラスチックゴミが見つかりました」は、はっきりしているので「具体的」ですが、「地球は環境問題で大変です」は、ざっくりしているので「抽象的」となるのです。

もう一つ、「犬」を例に挙げてみましょう。
「チワワ、トイプードル、近所のポチ」と表現するのは「具体的」ですが、「4本足で歩く動物、哺乳(ほにゅう)類」と表現するのは「抽象的」です。

つまり、抽象的思考は、より広く大きなまとまりで考えること、具体的思考はより狭く分解して考えることを指します。

抽象的思考はパソコンのOSにたとえることもできる

パソコンには、ソフトとOSが入っていますよね。ソフトが学校で習う3年生の理科、4年生の算数といった教科だとすると、抽象的思考はソフトを正しく機能させるOSです。

学校の授業などを通じて、子どもはどんどんソフトをインストールし、アップデートを繰り返していきます。しかし、OSのバージョンが古いと、ソフトのインストールやアップデートができません。

新しいソフトのインストールをするためには、OSのバージョンアップが必要です。このOSのバージョンは、抽象的思考力の高さ……「考える力」の高さといわれています。

抽象的思考力は、先天的な部分もありますが、後天的に高めることも可能です。

抽象的思考を身に付けるメリット4つ

抽象的思考を身に付けると、どのようなメリットがあるのでしょうか? ここでは4つご紹介します。

1.応用力が身に付く

物事を抽象的に上から見られる子どもは、全体が見渡せるため、応用力が高まります。

算数の問題を例として見てみましょう。
似た算数の問題をいくつか解くとします。すると、抽象的思考ができる子どもは、問題の共通点を見つけ「こういう問題は、この公式を使って解けばいいんだな」と解釈できます。そして、別の問題を解く際に「この問題は前に解いた問題と似ているから、前と同じ公式を使った解き方だな」と、公式を応用することができるのです。

このように、抽象的思考が身に付いていると、具体的な問題から得た知識を、新たな問題を解く際に応用することができます。

2.実体のないものが理解できる

抽象的思考力があると、実体のないものを理解したり、イメージしたりすることができます。

抽象的思考力は、小学校高学年ごろから発達していくため、学校の算数でも「1+1=2」のような具体的な問題だったのが、「割合」のように抽象的思考を使う問題へと進んでいきます。

「割合」は、割合そのものが実際に存在するわけではありません。「200円は1,000円の2割である」ということを理解するには、頭の中で「2割」の意味を理解し、それをイメージして自分の中に感覚的に取り込む必要があります。そのために必要なのが、抽象的思考力なのです。

算数だけではなく、抽象的思考力が発達すると、実際に自分の目で見たり体験したりしなくても、ニュースや本などで得た情報から広い世界を認識したり、説明を聞いてその事象を具体的にイメージしたりできるようになります。

3.発想力が豊かになる

抽象的というのは、とらえ方によってはどこまでも広がっていきます。「犬」と「テレビ」という一見関係のないものも、「地球上のもの」のように大きくまとめられますよね。つまり、枠にはまらない斬新なアイデアが浮かぶ可能性があるということです。

具体的思考でとどまっていると、狭い枠の中でしか物事を考えられなくなってしまいます。新しいものを生み出すには、抽象的思考が必要なのです。

4.人に何かを伝えるのが得意に

人に何かを説明する時に、「つまり……」とまとめて話すのはまさに抽象的思考です。抽象的思考力があれば、わかりやすく簡潔に説明できるようになります。

プレゼンテーションのオーソドックスな手順として、初めにざっくり「今からこの話をします」と序論を話し、次に具体的な話をいくつか挙げ、最後に結論で抽象度を上げてまとめるという方法があります。

これは、「抽象的」→「具体的」→「抽象的」の3段構成です。そのため、「抽象的」と「具体的」の往復を得意とする抽象的思考が高い人は、プレゼンテーションのように誰かに何かを伝えるのがうまいといえるでしょう。

まとめるのにも具体的に話すのにも、抽象的思考が必要です。抽象的思考により物事を理解する力が付くことで、複雑で難解な学習内容もどんどん理解を深めていけるようになります。

抽象的思考がある子どもの特徴4つ

抽象的思考力が発達段階である子どもたち。そのなかでも、抽象的思考が得意な子どもとそうでない子どもがいます。それでは、抽象的思考がある子どもにはどんな特徴があるのでしょうか?

話を理解するのが早い

少し話しただけで「なるほど」「つまりこういうこと?」と理解できる子どもは、抽象的思考力が高いといえます。のみ込みが早いともいえるでしょう。抽象化すると情報量が減るため、頭の中で処理する速度が上がります。そのため、理解したり判断したりするのが早くなるのです。

たくさんの知識や情報を持っている

抽象化するためには、抽象化するための知識が必要です。たとえば、犬と人間を一つのまとまりにするためには、「哺乳類」という言葉や意味を知っていなければできません。つまり、好奇心旺盛で、いろいろなことを知っている物知り博士のような子どもは、抽象的思考力も高い可能性があるといえるでしょう。

ひらめき力や鋭い考えを持っている

抽象化できると、物事の共通点をたくさん見つけ、つなげられます。そこから斬新なアイデアが生まれることもあるでしょう。他の人とは違う意見や発想を持っている子どもや、誰も気付かない点を突いてくる子どもは、抽象的思考力が高い可能性があります。

例え話が上手

例え話は具体化して話すことですが、そのためには一度抽象化しなければなりません。抽象化できれば、そこからたくさんの具体例につなげることができます。つまり、例え話をしながら上手に説明できる子どもは、抽象的思考力が高いといえるでしょう。

小学生からできる! 抽象的思考力を伸ばす3つのトレーニング方法

生活面だけでなく、先々の学習に対応していくためにも、高学年のうちにしっかりと抽象的思考力を育てていけるといいですね。抽象的思考力の伸ばし方を、具体的に見ていきましょう。

「要するにどういうこと?」と聞く

抽象的思考力を伸ばすためには、物事をまとめる練習が必要です。お子さまから聞く学校の話や読んだ絵本の内容など、一通り聞いたあとで「要するにどういうこと?」「簡単に言うとどういう話?」などと聞いてみてください。

会話の中で「抽象的」と「具体的」を行き来させる問いかけをすることが、子どもの抽象的思考力を引き上げることにつながります。

「要するにどういうこと?」とお子さまに質問すると、「……わからない」という答えが返ってくるかもしれません。しかし、それでもよいのです。保護者のかたの問いかけに一瞬でも考えていれば成功です。

これを繰り返していくうちに、思考する癖ができあがっていきます。お子さまの「わからない」に対して「ちゃんと考えなさい」などとは言わずに、そのまま会話を終わらせて大丈夫です。保護者のかたが「私は〇〇って思ったかな」のように、まとめた内容を伝えるのもよいでしょう。

どんなグループに属すのか考えてみる

いろいろなものが、どんなグループに属しているのかを意識するのもおすすめです。これは、生活や遊びの中だけでなく、勉強の中でもできます。

理科で考えてみると……犬、猫、人間は「哺乳類」というグループに属していますよね。イチョウやマツは「裸子植物」で、サクラやタンポポは「被子植物」、そしてどちらも「種子植物」というグループに属しています。

この広いグループのことを上位概念(じょういがいねん)といい、上位に行けば行くほど抽象的になります。つまり、このように属するグループを考えていくことは、抽象的思考の訓練になるのです。

「どのグループに属すのか」を考えることは、知識を整理することにもつながります。お子さまの勉強でいうと、「大きなグループ」が書いてあるのは教科書のもくじです。

たとえば、「食塩を水に入れるとどうなるか」という項目を教える時は、まず一番大きな章のタイトル「もののとけ方」を見てから、具体的な内容である「食塩を水に入れるとどうなるか」の説明に入るとよいでしょう。

まずは抽象的な大きなまとまりを伝えておくことで、「この勉強は水にとけるもののとけ方の話なんだ」と結び付けることができ、頭の中に知識をきちんと格納することができます。

共通点探しをする

ゲームのようにできるトレーニング方法もあります。それが「共通点探し」です。ただし、「りんごとバナナ」のように簡単に共通点が見つかるものでは意味がありません。抽象的思考を鍛えるためには、無作為に選んだまったく関係のないもの同士の共通点を探すのがポイントです。

たとえば、「テレビとボールペン」。この2つからは「固い、押す(リモコン)と使える、黒いものが多い」といった共通点が見つかります。「時計とりんご」なら、「丸い、3文字でできている、しん(芯、針)がある」といった共通点が思い浮かぶでしょう。

このように、関係なさそうなものの共通点を探していくことで、さまざまな概念が生まれます。この方法は、小学校低学年くらいからでも十分に楽しめます。ご家族や友達同士で楽しみながら、抽象的思考力を鍛えてみてください。

まとめ & 実践 TIPS

抽象的思考力があると、物事の本質が理解しやすくなります。狭い枠にとらわれず、さまざまな視点から仮説を立て、結論を導き出すこともできるでしょう。勉強だけでなく、仕事や生活での問題を解決するためにも、必要な能力だといえます。ご紹介した方法で、楽しみながら抽象的思考力を鍛えてみてください。

編集協力/海田幹子、Cue`s inc.

プロフィール


石田 勝紀

一般社団法人 教育デザインラボ代表理事。都留文科大学国際教育学科元特任教授。20歳で起業し学習塾を創業。これまで5万人以上の生徒を指導。現在はMama Café、執筆、講演活動を通じて親向けの情報を発信している。『東洋経済オンライン』連載(累計1.3億PV)、『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』(集英社)等合計31冊出版し、メディアにも多数出演。国際経営学修士(MBA)、教育学修士(東京大学)公式サイト
http://www.ishida.online

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