経済・教育の格差が深刻化 克服には「期待」も重要

日本は長く、諸外国に比べて、経済的に平等な国だと思われてきました。しかし最近では、貧困家庭の問題がクローズアップされています。国連児童基金(ユニセフ)の報告書を読むと、日本の子どもの貧困が深刻化していることがわかります。そして、教育も例外ではないというのです。

家庭の貧困の度合いを測る指標として、よく知られているのは「相対的貧困率」です。全世帯を所得順に並べた時に、真ん中の所得から見て、その半分に満たない世帯の割合を示したものです。日本の子どもの貧困率は15.8%で、先進41か国の中では下から14番目と、決してよくはありません。

この相対的貧困率を「貧困の多さ」だとするなら、「貧困の深さ」を示すのが「相対的所得ギャップ」です。所得の下から10%目の子ども世帯と、ちょうど真ん中の世帯に、どれくらいの差があるかを数値化したものです。すると日本では、真ん中の子ども世帯に比べて、4割ほどしか所得がないといいます。この相対的所得ギャップによる順位では、41か国のうち、下から8番目にまで下がってしまいます。

家庭の貧困と大きく関わるのが、子どもの学力です。国内でも、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果分析から、所得が多いほど学力も高くなる傾向が明らかになっています。

今回の報告書で使ったのは、代表的な国際学力調査であるPISAです。下位10%にある子どもの学力と、中位の子の学力の差を数値化した「学習到達度ギャップ」を比べると、37か国中、下から11番目でした。中くらいの成績の子に比べて、学力のかけ離れた子どもたちが少なくない……というわけです。

ただし、これには日本の学力レベルがそもそも平均的に高いということも影響しています。最低ラインの学習到達度(PISAの分類で習熟度レベル2)を下回る15歳の生徒の割合は5.5%で、エストニア・韓国・フィンランドに次ぐ上位4位の少なさです。つまり、貧困による学力格差の拡大を、教育で何とか踏みとどまらせている……ということです。しかし、それに満足していてはいけません。忍び寄る経済格差の拡大に、これ以上の学力格差をくい止めるにも、更なる教育の充実が求められます。

低学力対策については、PISAを実施する経済協力開発機構(OECD)も注目しており、2月にリポートを発表しています。15歳の生徒の学校や学びに対する姿勢に影響を与えるのは、生徒自身の成績であって、必ずしも社会経済的背景ではないといいます。成績を上げるには、試験や宿題による学習のサポートが第一ですが、意外に大きな要因は、教師や保護者が「期待」を掛けているかどうかなのだそうです。

学校や行政による補習などのサポートを充実させることが重要なのは、もちろんです。そのうえで、保護者も希望を失わず、常に子どもを励まし続けることが、貧困の連鎖から逃れる第一歩のようです。

  • ※ユニセフ報告書「子どもたちのための公平性—先進諸国における子どもたちの幸福度の格差に関する順位表」
  • http://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc13j.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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