物語の構成をとおして「発見」の大切さに気付く国語の授業[こんな先生に教えてほしい]
毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。
今回紹介するのは、石川県のAS先生による小学5年生の国語の授業です。
文章の「構成」に注目することで、文章を書くには、「発見があること」「盛り上がること」「共感すること」に注意を払わなければならないと気付く授業です。
授業の題材は、『わらぐつの中の神様』。これは、昔話が途中で入り、<現在 → 過去 → 現在>と話が進む物語です。先生はこのオリジナルと、時間軸を変えて、<過去 → 現在 → 現在>にしたものを読み比べさせます。その過程で、子どもたちは、オリジナルの構成によって、いかに人物や場面の描写がいきいきしたものになるのかを気付いていきます。
この授業を始めた「きっかけ」は、「伝え合う力が足りない」という課題から、高学年でスピーチ教材に着目して実践を続けるうちに、スピーチだけでなく、説明文や物語文でも「構成」を意識すると「もっと自分の考えをうまく伝えられるのではないか」と思いついたことでした。
では、子どもたちと同じように、2つの文章では、読後どんな印象が起きるのか、その違いを意識しながら読み比べてください。
『わらぐつの中の神様』の概略(オリジナル)
●現在の茶の間
雪国の夜、靴が濡れ、明日履いて行けるか心配する主人公のマサエに、おばあちゃんは、「わらぐつを履いて行ったら」とすすめます。渋るマサエに、おばあちゃんは「わらぐつの中には、神様がいる」と言って昔話を始めました。
●過去
むかし、おみつさんという働き者の娘がいました。町で見つけた雪げたをほしいと思った彼女は、自分で買おうと、わらぐつを編んで売り、お金をためることにしました。「丈夫になれ」と心を込めて作りました。市場に売りに出ましたが、見た目が不格好なため、なかなか売れません。「誰も買ってくれない」と思った時、若い大工がそのわらぐつを買ってくれました。
不思議に思うおみつさんが理由を尋ねると、「このわらぐつは、使う人の身になって、心を込めて作ったものだ。そして、神様がいる」と言いました。やがて、おみつさんと大工さんは、結婚しました。
●現代の茶の間
「おみつさんは、今どうしているの?」と聞くマサエにおばあちゃんは笑いました。おばあちゃんの名前は、ミツ。この話は、おばあちゃんとおじいちゃんの話だったのです。そしておばあちゃんは、おじいちゃんが買ってくれたあの雪げたを見せました。マサエは、「この中にも神様がいるかもしれないね」と言ったのでした。
<現在 → 過去 → 現在>のような流れで書かれたオリジナルです。
では、AS先生が用意した過去 → 現在 → 現在と時間軸どおりにした物語を読んでください。
『わらぐつの中の神様』の概略(AS先生版 時間軸どおり)
●過去
昔、働き者のおみつさんいう女性がいました。おみつさんは、町で見つけた雪げたにすっかり魅了され、自分の力で雪げたを手に入れようとわらぐつを作り始めます。「丈夫になれ」と心を込めてわらぐつを作りました。でも、出来上がったわらぐつは不格好なものでした。市場に売りに出ましたがなかなか売れません。「誰も買ってくれない」と思った時です。若い大工さんが買ってくれました。
なぜ、不格好なわらぐつを買ってくれるのかと聞くと、「このわらぐつは使う人の身になって心を込めて作ったものだ。見ればわかる」と大工さんは答えました。そして、「心を込めて作ったものには、神様がいる」と言ったのです。
やがて、おみつさんと若い大工さんは、結婚しました。
●現代の茶の間
そのおみつさんは、孫のマサエとともに暮らしています。明日履いて行く予定の靴が濡れ、乾かないと心配している孫のマサエに、おばあちゃんとなったおみつさんは、わらぐつを履いて行くようにすすめます。渋るマサエに、わらぐつの中には、神様がいると話します。そして、おばあちゃんは、おじいちゃんと出会った話を始めました。
●現代の茶の間
話が終わるとおばあちゃんは、大事にしまってあった雪げたをマサエに見せました。雪げたを見ながらマサエは、「この中にも神様がいるかもしれないね」と言ったのでした。
さて、皆さんは、どのような感想を持ちましたか?
ちなみに、子どもたちの感想は……
「まったく違う話になった」「へんな感じがする」
そして……出た意見は……
「発見がない。それは、正体がわかっちゃうから……だからドキドキ感がない」
「主人公がおばあちゃんになってしまっている」
「種明かしの『転』が弱くなるから、盛り上がらなくなる。面白いと感じなくなるから、読み続けたくなくなる」
「主人公のマサエが、成長した感じがしない」
「おばあちゃんの思いが受け継がれた感じがしない」
などの声が出ました。
そして、子どもたちは、構成する時には、「発見があること」「盛り上がること」「共感すること」が大事だとまとめたのです。
授業は、この後、どのように構成すればいいのか?というテーマに進んでいきます。
この授業のポイントは、子どもたちが、自由に思った感想や意見が交され、それをもとに、気付きが生まれた点です。
ちなみに、AS先生のクラスの毎朝の日課は、『教室はまちがうところだ』(蒔田晋治作)という詩を読み上げるところから始まります。「教室はまちがうところだ」から始まり、教室は意見を言い合いながら、本当のものをみつけてみんなで伸びていくところだという詩です。
AS先生の教室は、本当にそんな場所です。
何度も書いていますが、「自由に意見を言えるクラスが作れる先生」=「授業の達人」だと思います。