言葉を使いこなす面白さを実感できる授業[こんな先生に教えてほしい]

全国のとびっきりの授業を伝えるテレビ番組や「NHKデジタル教材」という授業で使っていただくためのWebを制作するために、これまで、たくさんの授業を見て、多くの先生方からお話をうかがってきました。そのなかで「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

言葉を使いこなす面白さを実感できる授業[こんな先生に教えてほしい]


今回紹介するのは、表現が苦手な生徒でも言葉を使いこなす面白さを実感できる授業です。
授業をするのは、島根県の中学校のV先生。専門は国語です。
授業を受ける中学2年生は、自分の気持ちを言葉にし、それが伝わる喜びを感じていきます。

このような授業を可能にした背景には、「型」「旬」「距離」の三つの要素があったからだと思います。

「型」
V先生の授業は、短歌作りを中心に進められます。10年以上前から力を入れているそうです。五・七・五・七・七の三十一文字の定型にあてはめる短歌は、短い文章で気持ちを表現できる魔法のリズムを持っています。
さらに、V先生は誰もが書けるようにと四つの工夫をしました。

1)ワークシートに参考作品を載せることで、どのようなことを書けばよいのかモデルを提示します。
2)先輩たちが作った短歌をただ紹介するだけでなく、上の句と下の句をばらばらにして、結びつける授業を行いました。これは、文章を自然と深く読み込むことへと繋がります。
3)書くコツとして、
「気持ちを表す言葉を使わず、行動を書くことのほうが伝わる」
と伝えました。
その時、例に出した短歌です。
「おはようと初めて君に言えた朝思わず僕はかけ足になる」
中学2年生14歳たちは、みんな納得です。
4)返歌作りを行うことで、誰もが短歌を作った経験を持てるように配慮しています。
自分の気持ちをまとめることが難しくても、友達が作った短歌の中から共感できるものを選び出し、返事・応援・アドバイスを歌にすることは、思ったよりハードルが低いのです。

「旬」
その時、生徒が最も表現したい「旬」のテーマを選ぶことをV先生は心掛けています。
この授業をした時は3月。卒業式の時期でした。そこで、選んだテーマは「恋愛」です。14歳のみんなにとって、恋心に決着をつける恋の決算期だからです。
授業のタイトルは、「14歳の相聞歌」。
好き、切ない気持ちなど、今ならではの恋する気持ちを短歌で表現していきます。
これまで、V先生は、「旬」のテーマとして「職場体験」や「アメリカ同時多発テロ」なども取り上げたそうです。
「旬」のテーマは、生徒たちのやる気を導き出す源泉になります。どんなテーマを選ぶか、それは教えるセンスを見るうえで、とても大切なことだと思います。

「距離」
以下に紹介するのは、短歌作りを始めた生徒たちにV先生が傍らでつぶやいた言葉です。
「あなたが告白したの?」
「ドキドキした?」
「どこで歩いたとか」
「これがいい! これ」
「いいよ。最高じゃん」
何となくなく伝わりますでしょうか? V先生と生徒たちの距離が……。くっつきすぎず、また離れすぎていない感じです。確かに一人ひとりの生徒と信頼関係を築いていることが伝わってきました。
学級経営が上手くいっていることは、良い授業をするための基本中の基本だと私は思います。

表現するための言葉の使い方を知らず、表現したい気持ちと言葉とがバッチリ「はまった!」という体験がない生徒たちに、格好いい表現ができたという経験をさせたい。
というV先生のインタビューに、とても共感したことを覚えています。

最後に、生徒たちが作った歌から三首を紹介します。
なかなか良い歌だと思うのですが、みなさんはどう思いますか?

・三月にやっと隣になれたのにチラ見するしかできない毎日
返歌 せっかくのチャンスをムダにしてはダメ! がんばってほら声かけてごらん

・今はまだ恋になっておらんけどいつかは君にダンクを決める
返歌 大丈夫その気持ちを持ってればいつかはきっとダンクも決まるさ
返歌 待ってるよ君が私にダンクするそしたら私受けとめるから

・大好きなあの先輩の好きな人私じゃなくて三年生です
返歌 大丈夫あきらめてたら負けちゃうぞ今日も来るよねラストスパート

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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