速く走るコツ【後編】

前編では、かけっこの練習をする際の基礎知識について、宇都宮大学の加藤謙一先生に教えてもらいました。
後編でも引き続き加藤先生に、実際に速く走るためにはどのような練習をすればよいのかについて、お聞きしました。



かけっこが速くなる3つのコツ

(1)スタートダッシュのコツ
速く走るためには、スタートダッシュの姿勢がとても大切です。
スタートダッシュの姿勢は、腰を落として、スタートの合図とともに勢いよく走り始められるものでなくてはなりません。もしお子さまが野球の練習をしているのであれば、「野球で盗塁する時は、どういうポーズをしている?」と聞いてみるとよいでしょう。盗塁の姿勢から体を前に向けたものが、スタートダッシュの姿勢になります。

野球をしていないお子さまには、立ち幅跳びの、跳ぶ準備をするためにひざを曲げる姿勢を取ってもらいます。すると、勢いよく走りだすには、腰を落とす姿勢を取ることが大切だということがわかってもらえると思います。

また、走り始める時に、左右どちらの足を出すのか、自分に合ったやり方を覚えましょう。そのためには、腕立て伏せの姿勢から「ヨーイ、ドン」で走り始めてみるのがおすすめです。その時に自分の体を支えているのが、スタートの時に前に出してかまえる足になります。



(2)腕振りのコツ
スタートダッシュと同じくらい大切なのが、腕振りです。
腕振りのコツは、実は「体がぶれないようにリラックスして振る」ことだけ。腕振りの角度も特に関係ありません。
腕振りの重要性を伝えるには、一度、腕を組んでまったく手を振らずに走らせてみるのがよいでしょう。「どうして腕を振らないと走りにくいのかな?」と、お子さま自身に考えさせてあげてください。

腕を振らずに走ると、体の軸がブレてしまい、とても走りにくくスピードも出ないはずです。そこで、腕振りを復活させると、とても走りやすいことに気が付くはずです。腕を大きく振れば、歩幅も自然と伸びて、地面を力強く蹴ることができます。

また、よく、腕を振る時の手の形はグーがよいのか、パーがよいのかという質問を受けることがありますが、これは自分がやりやすいほうでしたらどちらでもかまいません。ただ、力み過ぎず、リラックスできる形で走れるとよいでしょう。



(3)最後まで全力で走り切る!
足の速いお子さまほど、誰も追いついてきていないことがわかると、最後に力を抜いて流して走ってしまうことがあるようです。このようなことを繰り返していると、50メートル走でも100メートル走でもスタミナがもたず、ゴールする前に足がもつれて転んでしまうということが起こります。ゴールラインより5メートルくらい先まで走るつもりで全力を出し切る練習をしてください。



走る力を育てるには鬼ごっこがおすすめ

以上の(1)・(3)が速く走るコツですが、このほかにも根本的に走る力を強くするために、ぜひ試してほしいことが「鬼ごっこ」です。鬼ごっこは、ただ走るだけでなく、走っている途中で急な方向転換をしたり、ジグザクに走ったりするような場面がよくあります。バスケットボールやサッカーなどフェイントをかけて走ったりすることも、走る力を強くすることにつながります。

外で遊ぶことが減ってしまい、運動不足になりがちな現代のお子さまこそ、このように変則的に走る遊びをして、ぜひ走る力を育ててあげてください。



「絶対にこうやらなくてはならない」という型にはめず、自分で気が付く工夫を

保護者のかたは、お子さまが一生懸命がんばっているからこそ、よい結果を残すためになんとか速く走るコツを教えてあげたいと思うかもしれません。
しかし、「絶対にこうやらなければいけない」という型にはめてしまっては、楽しく走ることもできなくなってしまいます。大切なのは、お子さま自身がいろいろな走り方を試してみて、どうすれば速く走れるのかを学ぶことなのです。

かけっこが終わったあとは、順位にこだわらず、「腕振りができていたね」「練習する前よりかっこよく走れたね」などと、できたことをほめてあげてください。

お子さまの成長を実感できるかけっこを通じ、家族での一体感を楽しめるとよいですね。

プロフィール


加藤謙一

宇都宮大学教育学部教授。博士(体育科学)
専門は健康・スポーツ科学・身体教育学。どうしたら速く走れるのか、遠くへ跳べるのか、遠くへ投げられるのか、そうした運動が小学生から大人に至る過程のなかで、どのように動き方を身に付けるのか研究を行っている。

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