小中一貫教育、施設面から見た課題は? 文科省が留意点

小中一貫教育を行う「義務教育学校」が、2016(平成28)年4月から、市町村教委などの判断で設置できるようになりました。その内容については以前にも当コーナーで説明しましたが、いざ具体化となると、問題も山積しています。そこで今回は、校舎など施設・整備の面から、小中一貫教育の課題などを探ってみましょう。

9年一貫の義務教育学校では、現在の6・3制以外にも、4・3・2制、5・4制など、さまざまな学年の区切りが可能になります。しかし実際には、小学校と中学校を一緒にすることは、そう簡単なことではないようです。
たとえば現行の小中学校は、小学校が学級担任制なのに対して中学校は教科担任制、授業時間は小学校が45分なのに対して中学校は50分、中学校には放課後の部活動があるが小学校はない、などのさまざまな違いがあり、それが各学校の施設・整備にも反映されています。グラウンドの遊具や器具も大きく違うほか、プールの深さなども異なります。さらに小学1年生と中学3年生の身体の発達の違いを考えれば、階段の段差やトイレの構造なども同じ規格が通用しないことは、容易に想像できるでしょう。義務教育学校では、これらの問題をクリアしなければならないのです。

このため文部科学省は、小中一貫教育の先進校による施設・設備の工夫などを集めた事例集を作成しました。施設の在り方としては、小中学校段階の子どもたちが同じ校舎で学ぶ「施設一体型」、小学校と中学校に相当する校舎などが離れた場所にある「施設分離型」、隣り合った場所にある「施設隣接型」の3タイプが想定されています。このうち「施設一体型」では、学級担任制と教科担任制が混在すると思われる学年段階の教室環境を十分検討すること、学年や、4・3・2や5・4などの学年段階を越えて異なる年齢の子どもたちが交流するスペースを設けること、学年間で授業時間や下校時間が違うことに対応したチャイムなどを検討すること、部活動が行われる運動場とは別に小学校段階低学年用の運動場を計画すること、手洗いなどは児童生徒の体格差に配慮することなどの留意事項を示しています。

一方、「施設分離型」や「施設隣接型」では、同一の学校としての一体感を出す施設デザインなどの工夫、教職員が合同で会議や研修ができる空間の確保などをポイントとして挙げています。
最も注目されるポイントは、地域の拠点となる施設や子どもたちと地域住民が交流できる施設を整備するなど、保護者や地域住民が学校運営に参画するコミュニティ・スクールなどを前提とした施設を求めている点でしょう。このため文科省は、学校施設の設計当初から保護者や地域住民などが参加する取り組みを支援するほか、その成果を全国に普及させることを計画しています。

義務教育学校の設置にあたって、保護者などは今後、カリキュラムなどの教育内容はもちろんのこと、学校施設の設計や改修計画などの段階から、地域の実情や保護者の意見をどれだけ反映させる学校づくりをしているのかにも注目していく必要がありそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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