「就活」時期の見直しは大学教育を最優先で

大学生の就職活動期間が今年(来春卒業生)から「後ろ倒し」になりました。大学での学習時間を確保するための対策だったのですが、昨年からの懸念どおり、実際には活動が長期化するなどの混乱が生じつつあるようです。大手企業の多くが正式に内定を出す8月以降の動向も見てみないと、見直し初年度の成否は何ともいえません。しかし、問題が生じたから「元に戻せばよい」という単純な話ではないようです。

就職活動の見直しは、政権発足から間もない安倍晋三首相が直々に経済界トップに要請し、それに応じた経団連が、会社説明会などの広報開始を3月1日以降(従来は前年の12月1日以降)、選考開始を8月1日以降(同4月1日以降)に、それぞれうしろにずらす「指針」を定めたものでした。もっとも、この指針は加盟企業に限った申し合わせであり、非加盟の中小企業などが縛られるものではありません。また、表向きは指針を守っていても、インターンシップやセミナーなどが、実際には選考の場になっているという指摘もあります。

文部科学省が5月に国公私立大学・短大82校とその学生(就職希望者3,887人)を対象に実施したアンケート調査(外部のPDFにリンク)によると、大学側の6割が就職活動期間の長期化を指摘し、半数が前年度に比べても「授業の出席状況」「卒論・修論(卒研・修研)指導」などに支障が出ると見ています。学生に聞いても、3人に2人が3月から企業にエントリーし、半数近くが4月から採用面接を受け始めたと回答しています。就職活動の短期化は、今のところ、ねらいどおりにいかない兆しが表れています。
ただ、就職・採用活動の問題を考える時、肝心なことが忘れられがちです。大学の教育でどんな学生を育てるのかということです。

「高大接続改革」では、とかく大学入試改革ばかりが注目されます。しかし当コーナーで解説してきたとおり、元々は「大学教育を変えなければならない」という問題意識が発端でした。そこには4年間の一貫したカリキュラムを通じて社会で通用する汎用的能力(学士力・人間力・社会人基礎力)(外部のPDFにリンク)を育てるべきだという考え方があり、急速に広がっているアクティブ・ラーニング(AL、大学では「能動的学修」と訳す)も、そのためです。一つの授業に対して予習・復習も含めた勉強時間をしっかり確保する必要があり、履修登録できる授業数の上限を設ける「キャップ制(外部のPDFにリンク)」を更に強化すべきだという論議もあるくらいです。2・3年生で取れる限りの単位を取ってあとは就職活動に充てようという旧来型の発想自体が通用しなくなるのです。

企業にしても、まだ大学教育での育成が不十分な学生を「青田買い」する問題の深刻さを、よくよく認識すべきでしょう。以前は激烈な大学入試をパスした学生なら、その多くが一定の優秀な人材になる可能性が見込めました。それが今や少子化によって、難関大学といえども昔に比べハードルは下がっています。今後の入試改革で、ますます大学名に依存した採用選考はリスクが大きくなります。今後もますます変わる大学に合わせた採用慣行を、早急に確立すべきでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

子育て・教育Q&A