「最近、様子が変だな」と思った時のコミュニケーション[やる気を引き出すコーチング]

「この前、子どもが通っている保育園から連絡があって、うちの子が描いた絵を見て、先生が『少し変だな』と思われたみたいなんです。精神的に不安定というか、絵からそういうことが読み取れるらしいんですけど。『最近、おうちで何かありましたか?』と聞かれて、とても不安になったんです。何だろう? もしかしたら、先週、きつく叱ったことかな?『一緒にトイレに行って』って言われたのに、『一人で行けるでしょ!』と断ってしまったことかな?とか、あれこれ考えてみるんですけど、どうしたらいいかわからなくて、心配なんです」
あるお母さんが、顔をしかめながら話してくださいました。こういうお話を聴くたびに、「こんな時こそ、コミュニケーションが大事なのになー」と思ってしまいます。



子ども本人に「質問」してみる

昨今の風潮として、少し気になっていることがあります。
「子どもが5分もじっと座っていられないんです。ネットで調べてみたんですけど、これって、何かの障害じゃないかと思って」
とか、
「発達心理学では、この年齢ではこういうことができるって書いてあるのに、うちの子はまだなんです。何か問題があるのでしょうか」
というようなお声を耳にすることです。
どこかから得てきた知識や情報にあてはめて、子どもを見て、そのとおりでないと「おかしい」「問題だ」と思ってしまう風潮が気になります。情報に振り回され、わざわざ問題児を作り出しているようにしか見えない時があります。先ほどの保育園の先生も、裏打ちされた根拠に基づいて、子どもが描いた絵を分析されているのかもしれませんが、それは、あくまで、大人側の憶測にすぎません。
コーチだったら、まず、目の前の本人に質問をしてみます。
「何を描いているの?」
「これはどういう場面?」
「描いてみてどう思った?」
それで、様子がおかしければ、また、折々に質問をしながら観察してみます。
「今、どんな気持ち?」
「何か言いたいことはある?」
「何かあったの?」
その子本人の気持ちを聴くようにします。<聴いてみないとわからない>のです。もちろん、子ども自身だって、自分の中で起きていることを言葉でうまく表現できない時もあるでしょう。その状況も含めて、聴いてみないとわかりません。本に書いてあるとおりに、すべての子どもが育つなんて、そんなことばかりではありません。どこかに書いてある知識や誰かが話していた情報と対話をするのではなく、目の前の生身の子どもを見て、対話をすることのほうがずっと大事ではないでしょうか。



「言葉」以外でも愛情は伝わる

これは、子どものころの思い出として、友人が話してくれたことです。
「中学生のころ、クラスのみんなに口をきいてもらえない時期があって、毎朝、学校に行くのがつらかったことがあったけど、学校に行く時に、母が『行ってらっしゃい』って背中を軽くさすってくれたんだよね。あれって、わかっていたのかな?とも思うけど、ほかに何も言わないわけ。学校の話も家では特にしなかったけれど、毎朝、『大丈夫だよ』っていう笑顔で背中をさすってくれて、あれで、学校に行けていたかなと思うんだよね」
こちらは、ある女子高生の言葉です。
「進路のこととか、友達のこととか、もういい加減めんどうくさいな、どうでもいいなって気持ちになっていた時に、お母さんが、いきなり、ぎゅってハグしてくれて、『何?』って思ったけど、なんか楽になった。変な親ですよね」
たとえ、子どもが今の状況を話してくれなかったとしても、言葉はなくても、「愛しているよ」「信じているよ」「いつもあなたの味方だよ」「あなたは大丈夫だよ」という気持ちを伝えることはできます。それが伝わると、安心感がわいてきます。その安心感が土台にあれば、子どもは子どもなりに自分で考えられます。
「最近なんだか様子が変だな」と思う時も、憶測に振り回されず、子ども自身の気持ちを尊重しながら、愛情と信頼を伝えてあげられたらと思います。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

子育て・教育Q&A