「勉強しなさい」と言わなくてもいいコミュニケーションとは?[やる気を引き出すコーチング]

「Aさんの親御さんとはいったいどんな人なんですか?」と、どうしても聴かずにはいられないほど、高校3年生のAさんは、本当に優秀なクライアントさんです。ここ8か月程、コーチングをさせていただきましたが、大人以上に自己管理ができていて、いつも感心させられっぱなしでした。Aさんは、約束した時間に1分と遅れず電話をかけてきてくれて、月2回、定期的にコーチングを受け続けました。「今週はこれをやります」と自分で言った課題は、毎回すべてやり遂げました。コーチなどいなくても、十分、自発的に勉強できているように思います。そんなAさんから返ってきた言葉は、
「基本的に何も言わない親です。親から『勉強しなさい』と言われたことは今まで一度もないです」
でした。やっぱり!
Aさんに限らず、「勉強しなさい」と言わないご家庭のお子さんのほうが、よほど勉強しているように常々感じます。この言葉よりもっと効果的なコミュニケーションがあるということです。



まず、行きたいゴールからたずねる

状況は少し違いますが、先日も、「~しなさい」以外のコミュニケーションで子どもが変わったというお話を聴く機会がありました。「高校には行かない」と言っていた不登校の女子中学生Bさんが、急に、「高校に行くために勉強をがんばる!」と言い出したというのです。保護者も先生も、最近は「高校に行きなさい」とは一言も言っていないそうです。きっかけがあったとすれば、先生が、こんな質問を書いたプリントをBさんに渡してみたことです。


(1)来年の4月にどうなっていたいですか?
(2)その時を10点満点とすると、今は何点ですか?
(3)今できていることはどんなことですか?
(4)何をすると、足りない点を上げることができますか?
(5)それをするための行動計画を考えてみましょう。


この質問の流れは、まさに、私たちコーチがクライアントさんをコーチングする時に意識している基本の流れです。まず、「どうなりたい?」「どこに行きたい?」という本人のゴールを確認します。そこから、コーチングはスタートします。そのあとで、これからやることを明確にしていきます。
Bさんは、来年4月時点の自分の理想像をイメージしてみて思ったのだと思います。「やっぱり高校に行きたい。そのためにもっと勉強はしたほうがよい」と。
勉強に限らず、やる気を引き出せない原因の多くは、このプロセスを一切踏まないで、「~しなさい」と伝えることに終始しているところにあるのではないでしょうか。何のために勉強するのかを自分で納得できていないうえに、「勉強するとこうなるんだ!」というゴールが自分のことになっていないのです。人から強制されたゴールに、目的も見いだせず向かい続けることは、大人だってやる気になれないでしょう。



自分で考えて自分で決めることの大切さ

上記の(1)~(5)のプロセスで、もう一つ大切なことは、「自分で考えて自分で決める」という要素です。Bさんに対して、先生は一切強制していません。「書けそうだったら書いてみてね」と言ってプリントを渡しただけです。Bさんの主体性に任せたことが変化につながったのだと思います。

冒頭でお話ししたAさんのご家庭も、子どもの主体性をとても大切にされているのだと私は思います。というのは、Aさんはこんなことも話してくれたからです。「基本的に親は何も言わないんですが、私が『やりたい』と言ったことには、できる限りの協力をしてくれました。毎日、ベタベタほめるわけでもないし、でも、親が自分のことを見守ってくれているんだなという感じはいつもありました」。子どもを信じて、子どもに任せる親御さんの姿勢が伝わってくる言葉だと思いませんか。

ゴールも、そこに向かう具体的な行動についても、「自分で考えて自分で決める」ことで、子どもは自発的に勉強に向かうようになるのです。日常の対話の中に、今回ご紹介した(1)~(5)の質問を織り交ぜてみてはいかがでしょうか。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,575円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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