読み聞かせが学校・社会で活躍できるチカラをつくる!?-渡辺敦司-

大学入試と、幼児教育から大学教育までを大幅に変えようという教育改革論議がいま行われていることは、これまでにもお伝えしてきたとおりです。思考力の育成やグローバル化への対応など、21世紀で活躍する子どもたちは、さまざまなチャレンジをしなければならないようです。その基礎が幼少期のころの読み聞かせにあると言ったら驚くでしょうか?

ベネッセコーポレーションが2014(平成26)年11月から開始した「まなびmeeting」(外部のPDFにリンク)の一環として全国6大都市などで開催する「教育シンポジウム」の第2回は大阪市で開催され、テーマは「読み聞かせ」でした。ベネッセ教育総合研究所の高岡純子・次世代育成研究室長は、小学校以降の学力に影響する「社会情緒的スキル」が、子どもの意欲を尊重したり自分で考えられるように保護者が促したりすることで伸びていくものであり、それには絵本をとおして豊かなコミュニケーションを育むのが有効だというのです。
社会情緒的スキルとは、協調性・がんばる心・好奇心・自己制御力・自己主張など、「世界で注目されている」力だといいます。2014(平成26)年末にまとまった高大接続(高校・大学教育と大学入試の一体改革)答申(外部のPDFにリンク)では知識・技能や思考力・判断力・表現力と並んで「主体性・多様性・協働性」の育成を打ち出しましたが、社会情緒的スキルはその基礎となるようです。

何を大げさな、と思うでしょうか。23年間の小学校教師経験を持つ教育評論家の親野智可等さんが、実例を挙げながら具体的に説明していました。読書をよくする子は学力も高くなることはよく指摘されていますが、幼児期に絵本に親しんできた子は、小学1年生の段階でたくさん言葉を知っていて、教科書がすらすら読めるだけでなく、物語がわかるため人の気持ちもわかり「人間関係力」にも秀でているといいます。
そして子どもを本好きにするカギは、保護者が握っています。親野さんによると、絵本の読み聞かせで大好きな保護者に抱かれて温もりを感じながら「愛されているな」「本の世界って楽しいな」という二つの実感がリンクして、「読書は楽しいな」という快感につながるといいます。『あらしのよるに』などで知られる絵本・童話作家のきむらゆういちさんも「絵本は音楽と同じ。味わう快感がある」と言っていました。

高岡室長は、年齢に合った読み聞かせのポイントとして、

(1)0~2歳は親子で絵を楽しむ
(2)3歳からは言葉も楽しむ
(3)5歳からはストーリーを味わう

としたうえで、小学校低学年までは一緒に本を読むようアドバイスしました。文字が読めるようになるということは、「本を味わえる」ことを意味しません。子どもの反応を見ながら、保護者が「どうしてだろうね?」などと問い掛けることで、自分で考え、答えを探せるようになるといいます。
そうは言っても、仕事や家事に追われるなかで子どもに読み聞かせをするのは大変でしょう。シンポジウムで読み聞かせを行った毎日放送アナウンサーの関岡香さんは、2人の子どもと接することのできた短い時間でも、寝る前の絵本の読み聞かせによって深い関わりができたと振り返っていました。

大学入試と高校・大学の教育を一体で改革する先の中央教育審議会答申では、「主体性を持って他者を説得し、多様な人々と協働して新しいことをゼロから立ち上げることのできる、社会の現場を先導するイノベーション(革新)の力」を大学教育で身に付けさせることを改革の理由に挙げていました。実はそうしたチカラの源も読み聞かせにあるとしたら、すばらしいことではありませんか。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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