学校に自殺予防教育を導入へ 自殺理由の多くは学校でのトラブル-斎藤剛史-

子どもたちの自殺が相次いでいます。マスコミでは自殺があるたびに「いじめ」の有無などが取りざたされますが、子どもの自殺はある意味、すべて「いじめが原因」と断定できるほど簡単なものではありません。これに対して文部科学省は、子どもの自殺が起きた時の調査指針を改定するとともに、子どもたちに向けた自殺防止教育導入の手引書を作成しました。同省が子どもたちを直接の対象とした自殺予防教育に踏み切るのは初めてです。

文科省は「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」を設置して、子どもの自殺への対応や自殺予防方策を検討していました。2011(平成23)年6月から13(同25)年12月までに自殺した500人の子どもたちについて、自殺の理由に関係なく置かれていた状況・環境(複数回答)を学校にアンケート調査した結果によると、「精神科治療歴有」13.5%、「進路問題」11.9%、「独特の性格傾向」10.5%、「自殺をほのめかしていた」10.1%、「不登校又は不登校傾向」9.9%などが多く、「いじめ」は2.0%、体罰など「教職員からの指導・懲戒等の措置」は2.8%にすぎませんでした。ただ、進路問題や人間関係など「学校的背景」の割合は多く、やはり子どもの自殺については学校生活での問題は無視できません。

これらの子どもの自殺について協力者会議は、「自殺の背景調査の指針」を改定しました。これまでは子どもの自殺が発生しても遺族の意向などを理由に学校側が教育委員会などに報告しない例もありました。これに対して新指針は、「自殺又は自殺が疑われる死亡事案」の全部について「基本調査」(指導記録の確認、教職員からの聞き取り調査など)を実施し、報告書を教育委員会と文科省に提出するとしています。さらに、「学校生活に関係する要素(いじめ、体罰、学業、友人等)が背景に疑われる場合」と「遺族の要望がある場合」などのケースでは、外部の専門家などを交えた「詳細調査」を教育委員会が実施することになります。

注目されるのは、調査結果を踏まえて、残された子どもたちを直接の対象にした「自殺予防教育の導入」を打ち出している点です。友人や知り合いが自殺した子どもたちは混乱しており、そっとしておくべきだという意見もありますが、同協力者会議は「子供は既に様々なところで多くの情報を手に入れてしまっており、その情報の多くは誤っている」として、再発防止のための自殺予防教育の重要性を強調しています。
ただし、自殺予防教育の実施に当たっては、教員や保護者など「関係者間の合意形成」、自殺予防プログラムなど「適切な教育内容」、自殺のハイリスクを抱える生徒への「適切なフォローアップ」が前提条件となるとクギを刺しています。

作成された手引書には、子どもの自殺に関するQ&Aも収録されており、保護者などにも役立ちそうです。自殺により友人を失った子どもたちは、救えなかったという罪悪感や喪失感を抱くことがあります。「心のケア」だけでなく、さらに踏み込んだ対策が必要なのかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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