学長の権限拡大で大学はどう変わるのか‐斎藤剛史‐

大学を舞台にした古いテレビドラマや映画では、学長選挙をめぐる対立といった内幕を暴露するようなエピソードがありました。しかし現在の大学は、大きく変わっています。そして、2014(平成26)年6月に参院本会議で可決・成立した「改正学校教育法及び国立大学法人法」によって、さらに大学改革が加速しそうです。大学志望者やその保護者などにどんな影響を及ぼすのでしょうか。

大学のイメージとしては、学部ごとに大学教員から成る教授会があり、大学全体の選挙で学長が選ばれるというのが一般的なものでしょう。しかし国立大学に限れば、現在はまったく違う形になっています。国立大学は2004(平成16)年に法人化され、大学経営については大学教員や経済人などの学外委員から成る「経営協議会」が、教育研究については学部長などから成る「教育研究評議会」が、それぞれ責任を担っており、学長は両組織のトップに位置付けられています。また、学長は両組織の委員などで構成された「学長選考会議」によって選ばれる仕組みです。これらの狙いは、学長のリーダーシップのもとで迅速に大学改革を行い、国立大学を社会の変化やニーズに対応できるようにするためのものでした。ところが、各学部の教授会は従来のまま残っていたため、大学改革を推進しようとする学長と、それに慎重姿勢を示す教授会が対立するというケースも少なくありませんでした。

もともと大学の教授会は、「重要な事項を審議する」ため学校教育法で設置が義務付けられている組織ですが、その役割が法的にあいまいだったため「大学の自治」や「学問の自由」などの象徴的な存在となっている一方、大学の保守化、学部間の対立などの要因ともなっていたという指摘も一部にあります。このため、改正された学校教育法などでは国公私立大学全体をとおして、教授会は大学運営の決定機関ではなく、学長の諮問機関であると法的に明確化したうえで、学生の入学・卒業、学位の授与など教育研究に関する事項などに権限を限定しました。
文部科学省では、これによって学長の権限が強化されてグローバル化など社会の変化やニーズに応じた大学改革が素早く実施できるようになると説明しています。一方、私立大学では、大学の伝統、創設以来の経緯などから学長の選出方法や教授会の影響力は、大学によって千差万別です。しかし、法律改正による学長の権限強化によって影響を受ける大学も出てくるでしょう。

今回の法改正については、大学の自治を損なうとして日本弁護士連合会や教職員団体などは強く批判しています。しかし、いずれにしろ大学改革のスピードが今まで以上にアップすることは確実です。国立大学も生き残りのためさまざまな改革を次々と打ち出してくることは間違いありません。受験者やその保護者は、常に最新の大学情報を入手し、将来の改革動向なども踏まえて志望大学・学部を検討することがより大切になってくるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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