自治体の教育支出、増えたけれど……耐震化に迫られ?‐渡辺敦司‐

都道府県と市町村が支出した「地方教育費」が2012(平成24)年度、3年ぶりに増えていたことが、文部科学省の調査でわかりました。教育の充実のために使われるなら、けっこうなことです。ただ、調査結果をよく読むと、必ずしも手放しでは喜べないようです。

まずは数字を見てみましょう。学校教育費が前年度比0.6%(813億円)増の13兆4,410億円、社会教育費が1.3%(210億円)減の1兆5,534億円、教育行政費が0.2%(22億円)減の9,317億円の、合わせて0.4%(582億円)増の15兆9,261億円です。社会教育費が細っているのが気になりますが、それでも学校教育費は伸びているのだから、よしとしたいところです。
しかし、学校教育費を支出別に見てみると、教育活動費は増えているとはいえ1.1%(35億円)増の3,354億円で、前年度の3.5%増と比べれば縮小しています。教員給与や事務職員給与等は下がっていますが、これには地方財政の悪化により公務員全体の給与水準が下がっていることとともに、少子化に伴う教職員数の自然減や給与の高いベテラン層の大量退職も影響していると見られます。

注目すべきは「建築費」です。前年度は15.7%減だったものが一転して10.2%(1,267億円)増の1兆3,696億円に跳ね上がっています。さて、そんなに学校の新設が増えたかな……と思ってしまいますが、調査対象は2012(平成24)年度の支出です。予算を組むのはその前年度ですから……11(同23)年度、東日本大震災の直後です。
あれから全国で緊急に、学校の耐震化が進められました。各自治体が努力した結果、地域格差はまだあるものの、公立の小・中学校や高校では全体の耐震化率が90%を超えました。子どもたちの命と避難所となった場合の地域住民の生活を守るには、一刻も早く100%を目指さなければならないことは、言うまでもありません。そのことは評価してもし過ぎることはないでしょう。

ただ、その前に地方教育費予算が増えたのはいつかと改めて見ると、2009(平成21)年度です。その前年度に何があったかといえば……08(同20)年9月のリーマンショックです。景気回復のために政府は次々と手を打ちましたが、その一つが教育分野での「スクール・ニューディール」構想の推進でした。この時に学校の耐震化を進めたことが、東日本大震災の時にも役立ったことでしょう。ICT化の推進でも、電子黒板の導入が同構想をきっかけに飛躍的に進んだことは事実です。
とはいえ、景気対策や公共工事がなければ教育予算が増えないというのも寂しい話です。耐震化は絶対に進めなければなりませんし、国からの補助割合も増えたので地方の負担分は少なくて済みましたが、それでも財源捻出を迫られた一面はあります。長い目で見て日本の成長を考えるとき、「未来への先行投資」としての教育予算はどうあるべきか、真剣な論議が必要なように思えます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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