国民投票権「18歳以上」、高校教育にも影響?‐斎藤剛史‐

憲法改正手続きを定めた改正国民投票法(外部のPDFにリンク)がこのほど参議院本会議で、与野党の賛成多数で可決・成立しました。改憲の是非などがマスコミでは大きく取り上げられています。しかし今回の改正は、実は子どもたちの生活や学校教育にも大きな影響を及ぼすことになりそうなのです。一体、どういうことなのでしょうか。

国民投票権「18歳以上」、高校教育にも影響?‐斎藤剛史‐


それは成立した改正国民投票法が、現在「20歳以上」と定められている公職選挙法の「選挙権年齢」と民法などの「成人年齢」をいずれも「18歳以上」に引き下げることにつながる可能性があるからです。仮に年齢引き下げが実現すれば、18歳つまり高校3年生あるいは高校卒業直後から国政選挙や地方選挙で投票できるほか、「成人」としてクレジットカードや消費者金融などの契約が保護者の同意なしで可能になります。ある意味、高校を卒業したらすぐに「成人」として社会の荒波に立ち向かう用意が求められるということです。
2007(平成19)年に成立し、10(同22)年5月から施行された国民投票法は、憲法改正に関する国民投票の投票年齢を「18歳以上」と定めています。ただ、同法付則で公職選挙法や民法が改正されるまでは国民投票年齢を「20歳以上」とし、選挙権年齢や成人年齢の引き下げが「宿題」として残されました。その後、第2次安倍内閣の発足で憲法改正問題が浮上したこともあり、社民党と共産党を除く与野党が国民投票法を改正することで合意し、今回の改正国民投票法の成立に至りました。
具体的には、改正法の施行から4年後の2018(平成30)年に憲法改正のための国民投票の投票年齢を「18歳以上」に引き下げます。さらに衆議院の付帯決議や与野党合意では、改正法施行から「2年以内を目途」に公職選挙法の選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げるために必要な措置を講じるとしています。一方、民法上の成人年齢を引き下げることも課題として挙がっており、谷垣禎一法務相などは国会答弁の中で国民投票年齢の引き下げに合わせて民法などの成人年齢の引き下げを検討する方針を表明しています。

しかし、仮に選挙権年齢や成人年齢が「18歳以上」に引き下げられるとすれば、国政選挙などに投票し、保護者の同意なしでも契約行為ができる成人としての教育を高校段階でしておかなければなりません。現在でも「現代社会」などが必履修科目となっていますが、18歳で成人となるには不十分と言わざるを得ません。このため、自民党などが提言していた「社会参加や消費者教育等の推進を図る」ための高校の新科目「公共」(外部のPDFにリンク)の創設が、現実味を帯びてきそうです。実際、下村博文文部科学相や文科省幹部などは、既に新科目「公共」の創設と必修化を次期学習指導要領改訂のポイント(外部のPDFにリンク)の一つに挙げています。

選挙権年齢や成人年齢の引き下げには反対意見も根強く、今後の与野党協議でも曲折が予想されます。それでも国民投票年齢の4年後の引き下げが決定したことで、高校の新教科「公共」の創設がほぼ確実になってきたとも言えそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

子育て・教育Q&A