子どもが「吃音」かもしれないと思ったら【後編】保護者のサポート

吃(きつ)音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害の一つです。前回、吃音の症状についてご紹介しました。今回は、吃音症状が出始めたときに保護者が注意したいことについて、『吃音は治せる』の著者であり、目白大学教授の都筑澄夫先生にお伺いしました。



吃音症状が出たときに注意したいこと

「お、お、おかあさん」「おかあ、おかあさん」といった吃音の症状が見られたとき、多くの保護者はびっくりして「もっとゆっくり話してごらん」「落ち着いて言ってみなさい」などと話し方を注意してしまうことがあると思います。
多くの保護者は子どもによかれと思ってしていることだと思いますが、実はこうしたアドバイスが、お子さまの吃音を悪化させる原因になります。
吃音の初期段階では、子ども自身につらいとかイヤだという気持ちはないのですが、保護者や周囲の大人が否定的な反応をすることで、話すという行為と恐怖や嫌悪という感情が結び付き、自分に対する否定的な価値観が生まれ、言葉が出にくくなってしまうのです。
また、話しやすくなるように「お腹に力を入れて話してごらん」「最初に『えーと』とつけてごらん」などと話し方のテクニックを指導してしまうと、自然な話し方からどんどん遠ざけてしまうことになり、症状を悪化させてしまうのです。



吃音は頭の中で起こっている

吃音は舌が滑らかに動いていなかったり、口がうまく動いていなかったりするから起こるもので、言葉を音として出す器官(構音器官)の障害ではないかと思われがちですが、口でどもってしまうのではなく、言葉を頭の中で音声にする脳の働きがうまくいかないのです。ですから、いくらあごや口や舌や呼吸器の使い方を変えたり、話し方を工夫したりしたところで一時的にスムーズに話せるようになっても、根本的に治療することにはなりません。
私は言語聴覚士として長年、吃音の治療に関わってきましたが、幼児期には意図的に話す訓練をしない間接法が有効だと考えています。私たちは話すときに、最初に名詞がきて、次は助詞で……と話す順番をいちいち考えているわけではなく、無意識に話しています。吃音のあるお子さまも、すらすらしゃべれるときがあるのですから、そのときの脳活動が常に使えるように環境を整えてあげるのです。



家庭でできる環境調整法

幼児期に吃音症状が出始めた場合には、環境調整法が有効です。環境調整法とは、吃音が進みにくく治りやすい環境、つまり吃音に対する否定的な感情を弱めるよう配慮し、同時に「自然な発話」を多く経験させてあげる治療法です。本来は専門家の指導を受けながら行うと良いですが、家庭でも実践できる内容を少しご紹介したいと思います。

(1)言葉への干渉をやめる
吃音をいちいち注意されるのは、お子さまにとって非常にストレスです。たとえて言うならば、自分ではきちんと歩いているつもりなのに、「2ミリずれているから歩きなおしなさい」と歩くたびに言われるようなものです。意識して発話させるのは、自然な活動ではありません。ですから、吃音のお子さまと話す際は、言葉そのものではなく、本人の言いたい内容や気持ち、考えに反応してあげてほしいと思います。

(2)厳しいしつけをやめる
言葉への干渉だけでなく、日常のしつけや干渉などの圧力や制限を取り除いて、お子さまが自由に感情や意志を出せる状況を作るようにしてあげましょう。こう話すと、「私のしつけが厳しかったから吃音になってしまったのかしら」と考えるかたも多いと思います。保護者にその自覚がなくても、お子さまの感受性が強い場合は、ストレスを感じ、自分の気持ちを押し殺してしまう場合があります。まずは、自然な発話ができるよう、感情や意志を自発的に出せるように環境を整えてあげましょう。
このときのポイントは、家族みんなで取り組むことです。何人かいるお子さまのうち一人が吃音者なら、その子にだけ優しくするのではなく、すべてのお子さまに対してのしつけをゆるめていただく必要があります。

(3)アタッチメントを増やす 
そのうえで保護者とお子さまのアタッチメント(愛着行動)を増やしていただきたいと思います。手を握る、抱きしめるなどのスキンシップや、お子さまと向き合う時間を増やすようにしてほしいと思います。こうしたアタッチメントは、情動の安定に非常に重要です。
「~しなければならない」「がんばらなくちゃならない」と保護者自身がストレスを抱えていると、お子さまが何を考えて、何を思っているのかを見過ごしてしまいがちです。また、お子さまも保護者の前でいい子を演じようとしてしまいます。そうした緊張した環境を解きほぐし、お子さまが家庭で自由に感情や意志を出せる環境を目指してほしいと思います。

この環境調整法での有効率は約60%で、効果的な治療法であることが実践から明らかになっています。また、早ければ早いほど治癒率も高くなっています。吃音かもしれないと思ったら早めに言語聴覚士に相談し、積極的な治療に取り組んでいただきたいと思います。

『吃音は治せる』『吃音は治せる』
<マキノ出版/都筑澄夫(著)/1,440円=税込>

プロフィール


都筑澄夫

1971年、獨協大学外国語学部卒業。1985年、日本聴能言語福祉学院言語聴覚科副学科長。2004年、九州保健福祉大学保健科学部教授。2006年、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授。言語聴覚士。著書に『吃音は治せる--有効率74%のメンタルトレーニング』(マキノ出版)など。

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