先生の「先生」に必要なものは? 教員養成の課題‐斎藤剛史‐

教員の指導力の向上は大きな課題です。中でも大学における教員養成はどうあるべきかは、教育改革の中で常に問題となってきました。しかし、その中で見落とされがちだったのが、教員養成課程における大学教員の在り方です。いわば、先生の「先生」ともいえる大学の教員養成課程の担当教員には、どんな能力や経験が必要なのでしょうか。国立教育政策研究所の調査結果(外部のPDFにリンク)をもとに考えてみたいと思います。

国立教育政策研究所は、教員養成課程の大学教員に求められる資質能力を明らかにするための調査を実施しました。国立教員養成系大学・学部の学長・学部長から「優れた教員養成の取り組みをしている人」を紹介してもらう形で実施したものです。27の国立教員養成系大学・学部から計81人の推薦を受け、そのうち65人から回答を得ました。

まず、教員養成担当の大学教員として求められる資質・能力を尋ねたところ、「とても必要である」のトップは「教員養成担当者としての自覚」の81.5%でした。次いで、学生とのコミュニケーションなど教員一般に当てはまる項目を除くと、必要なのは「学校現場での教育実践と関連づけた授業の実施」が66.2%、「実践と理論の往還型のプログラムのデザイン」が63.1%、「教育実習など体験と関連づけた授業の実施」が53.8%などでした。先生の「先生」に必要なものは、教員を養成しているという自覚と、実際の学校現場での教育実践に役立つ授業をできるかどうかということのようです。しかし、逆に言えばこれらの回答は、このような資質・能力が不十分な大学教員も少なくないということを示しているとも受け取れます。実際、自由記述の意見を見ると、「教科専門の研究者は、学問研究に関心を注ぎ、教員養成に関わる学校現場の理解にほど遠い」「一部の教員だけしか主体的・積極的に教員養成に関わっていない」などの声が寄せられています。

また、「教員養成の優れた取り組みを行う教員」になるうえで「とても有益であった」と思われる機会は、「現職教員との交流」が66.2%、「自らの意思による試行と実践」が64.6%、「学生の教育実習等の現場体験への参画」と「同僚との議論」が52.3%、「卒業生である現職教員との交流」が47.7%などとなっています。
「教員養成担当の大学教員に今後特に経験してもらいたい機会」でも、「現職教員との交流」が58.5%、「共同での授業、プログラムづくり」が29.2%、「学生の教育実習等の現場体験への参画」が27.7%などでした。教員養成に当たる大学教員にとって最も必要な体験は、実際の学校現場の教員たちと交流し、学校や子どもたちの実態を知ることのようです。これについて自由記述では、「教員養成担当の大学教員が必ずしも当該教科の教員免許を保有していなかったり、教職経験がなかったりする場合が多い」という指摘があります。

教員養成の改革では、養成カリキュラムなどが課題となりますが、実は教員養成に当たる大学教員の在り方も大きな課題なのかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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