学校では今 【第16回】新小1生のための「失敗」のススメ‐小泉和義‐
新学期がスタートしました。特に、4月から新小1生になったお子さんたちは、不安と期待を胸に抱きながら、新しいランドセルを背負い、学校に通っていることでしょう。新小1生たちにとっては、初めての経験ばかりでたくさん失敗や間違いをしますし、保護者としてはとても心配だと思います。今回は、「失敗」や「間違い」を子どもの成長にどう生かしていけばよいか、考えたいと思います。
幼稚園・保育所と小学校との違い
多くの幼稚園や保育所では、ゆったりとした時間の中で「遊ぶ」ことが生活の中心でした。ところが小学校に入ると、規則正しい生活習慣のもとで「学ぶ」ことが重視されるようになります。子どもにとってこの変化はとても大きいはずです。
大きな変化の例を挙げると、その一つは「自分で小学校へ行く」ことです。登校班で集まって集団登校するケースもありますが、今までのように保護者と一緒ではありません。決まった登校時間に間に合うよう起床し、食事をとり、学校へ行く準備をして家を出なければなりません。また、小学校では1コマ45分の授業が組まれており、その時間はしっかりと席に座って先生の話を聞かなければなりません。そして、次の授業までの間にある5~10分間の休み時間で、お手洗いをすませなければなりません。
大人から見れば当たり前のことでも、初めて経験する小1生にとっては、かなり大きな変化と考えてよいと思います。そのため子どもが「失敗すること」は当たり前のことです。ですから、失敗することをマイナスと捉えず、失敗を経験して子どもは成長すると考えたほうがよいのです。
幼稚園・保育所と小学校との違いは今も昔もずっと存在していました。では今と昔とで何が違うかと言えば、それは子どもを取り巻く環境です。端的に言うと、今の社会は「子どもが失敗しにくい環境」なのです。たとえば、不審者対策もあり、放課後に子ども同士で外遊びすることが減っています。仲間との外遊びをとおして、子どもたちはいろいろな失敗を経験するのですが、そうした経験をしにくくなっています。また、子どもの失敗で無駄な時間を使いたくないと考える保護者が、先回りして失敗を回避することが増えているのではないかとも思います。
小学校での対応
小学校の先生方とお話をすると、ほとんどの先生が「失敗経験」が成長には欠かせないとおっしゃいます。社会全体で、子どもが失敗を経験できる環境が減っているからこそ、学校では成功も失敗も経験できるような授業の工夫をしています。たとえば、生活科や算数の授業も、45分間ずっと席に座っている授業は減り、校庭の植物の観察をしたり、近くのお店屋さんまで行って買い物をしたりするなど、「日常生活」に結び付けた体験をとおして学ぶ機会を増やしています。体験活動をとおして、成功や失敗などを多く経験できるようにという狙いがあるのです。また、運動会や音楽会などの行事も、成功・失敗体験を積むために欠かせない機会です。
家庭でできる「前向きな失敗」のススメ
小1生の場合、まだ一人でできないことがたくさんあります。その際、保護者がどう行動するかが重要です。私にも小4になる息子がいます。息子が小1生になった時に約束したことは一つ。「朝起きたら、自分の顔を洗う前に、小鳥の水を取りかえ、餌をあげること」。できないときは、きちんと叱りました。着替えがうまくできなかったり、出発時間になってもぐずぐずしたりすることはしょっちゅうでしたが、大目に見ました。たくさんの注文をつけることより、一つでよいから本人も納得できる「目標」をもって実行する中で、できないことができるようになっていくのではないかと考えたからです。子どもは、失敗を「失敗」と意識しない限り、自分自身で改善することはできないのではないでしょうか。現在、彼は小4生ですが、保護者が言わなくても自然に自分でできることが増えました(まだ叱られることはたくさんありますが)。
また、子どもに夢中になれるものが生まれると、前向きな「失敗」を経験することができると思います。たとえば「補助輪なしで自転車に乗れるようになりたい」という目標は、小学校低学年の子どもが抱く代表的な目標の一つですが、そうした大きい目標があると、何度転んでもくじけずにがんばろうとします。そんな時こそ、保護者の出番! 気休めのほめ言葉ではなく、「あともう少しで乗れるようになる!」という励ましの言葉とともに、「どうしたらうまく乗れるようになるのか」といった具体的なアドバイスが有効です。子どもは、真剣にそのアドバイスに耳を傾けるでしょう。たくさん失敗して、ようやく自転車に乗れるようになった時に見せる子どもの表情は、保護者にとっては宝物です。
ぜひ、子どもの目標の実現に付き合ってみてください。子どもの失敗経験をとおして、子どもも保護者も成長できると思います。