山崎直子さん(宇宙飛行士)が語る、「夢をかなえる読書術」【前編】
厳しい試験をくぐり抜けて選ばれた、極めて優秀な頭脳と強靭(きょうじん)な精神力を持つスーパーエリート。宇宙飛行士にはそんなイメージがあります。スペースシャトルに乗り込み、宇宙でのミッションを成功させた宇宙飛行士の山崎直子さんに、読書で得たものについて語っていただきました。
物語にのめり込んだ子ども時代
私が宇宙に興味を持つようになったのは、小学校低学年の時に『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』といったSFアニメを見たことがきっかけでした。講談社ブルーバックス(自然科学の話題を一般読者向けに解説するシリーズ)やカール・セーガンさんの『COSMOS(コスモス)』など、宇宙の本に出合ったのも小学生のころです。ブルーバックスは、わかりやすいものから難しめのものまでさまざまで、難しいものは飛ばし読みしました(笑)。『COSMOS』は、もちろん当時すべてを理解できたわけではありませんが、難しくても背伸びして読んでいる感覚がうれしかった記憶があります。
それと並行して、ファンタジーのシリーズ『誰も知らない小さな国』や青い鳥文庫(児童向け小説のシリーズ)、氷室冴子さん、新井素子さんなども読んでいて、大好きでした。『りぼん』などの少女マンガもよく読みましたよ。本もそうですし、テレビでもマンガでもそうですが、私はけっこうのめり込むタイプなんです。自分が主人公になりきって、読み終わったあと何日もずーっと頭の中でストーリーを考えていました。
高校、大学でサイエンスの世界に目覚める
高校のころは電車通学の時間が片道1時間近くあったので、その間が読書タイム。学校の先生にすすめられた、リチャード・P・ファインマンさんというアメリカの物理学者の本で、いわゆる物事の理科的な考え方にふれて、ものすごく影響を受けました。いちサイエンティストとしての真摯(しんし)な姿に感銘を受けましたね。ちなみに、科目では物理と数学が好きでした。式で世の中が表せるということが、不思議で美しいと感じていました。
大学に入ってからは、アイザック・アシモフさんやアーサー・C・クラークさんなどのSF小説に、広く接するようになりました。人間の想像力ってすごいですね。たとえばアシモフさんが考えた「ロボット三原則」(1950年刊行のSF小説『われはロボット』に登場した概念)なんて、まさにこれからロボットが普及していこうとしている今の時代に通用するんじゃないかと思います。宇宙船も、まだそれがなかった時代にSF作家が想像で書いていたものが現実になっているし、軌道エレベーター(地上から宇宙に達する想像上の巨大エレベーター)も実現に近付きつつあります。彼らの想像力が世の中を導いているんじゃないかと思うことがありますよ。
私は、子どものころから宇宙飛行士をめざしていたというよりは、漠然と「宇宙に関わる仕事に就きたい」と考えていました。宇宙船をつくりたいとか、宇宙で働くロボットをつくりたいとか、いろいろですね。エンジニアとして宇宙をめざしているうちに、選抜試験を受けながらだんだんと宇宙飛行士のイメージが固まってきたんです。高校くらいまでは、具体的なことはわからないまま、アンテナを張って宇宙の本をたくさん読んでいました。宇宙への夢を膨ませるうえで、その影響は大きかったと思います。
本がコミュニケーションのきっかけに
宇宙飛行士になる選抜試験のひとつに、「長期滞在適性検査」というものがあります。6泊7日の間、閉鎖環境適応訓練設備の中に缶詰になって、他の受験者7人と一緒に過ごしました。狭くて限られた環境の中で、さまざまな課題を忙しくこなしながら複数の人とストレスなく過ごせるかどうかを見極める検査で、もちろん外には出られません。トイレとシャワー以外、すべての言動がカメラとマイクで記録されます。
その検査の時に、私物として数冊の本を持ち込みました。浦沢直樹さんのマンガ『NASA』など、そのうちのいくつかは、自由時間にみんなで話題にできる本がいいと思って選んだんですよ。実際、夕食後から消灯までの間に、なんとなくみんなでテーブルを囲んでひと息つく時間があるんですが、「こんな本読んでるんだ」とか「おもしろい本ある?」なんていう会話のきっかけになりました。一緒に過ごしている人はライバルですが、みんな知識が広くて深い人ばかり。そんな人たちと宇宙の話ができて、とても楽しかったです。
その後、外国で宇宙飛行士として訓練をしたり、いろいろな国の宇宙飛行士や技術者と仕事をしたりすると、長く接するうちに仕事以外のいろいろな話題が出てきます。その時にも「アーサー・C・クラークのあのSF小説読んだ?」といった会話で共感が得られることが多くて、うれしかったですね。SFに限らず、外国で翻訳された日本の小説を相手が挙げて「あれ読んだよ」と言ってくれることも。訓練でロシアに行った時には、村上春樹さんの小説がロシア語に翻訳されていることを教えられてびっくり。その話で盛り上がって意気投合しましたよ。
次回は、読書が心の成長に果たす役割と、子どもに本を与える画期的な方法について語っていただきます。お楽しみに。
『宇宙飛行士になる勉強法』 <中央公論新社/山崎直子(著)/1,470=税込み> |