ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第13回】私が感じたカルチャーギャップ

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回は英語が苦手な高校生の娘の英語との闘い(?)についての内容でした。今回は、ロンドンと日本のカルチャーギャップについてお伝えします。



ロンドンに来て、あと少しで1年が経とうとしています。娘も私も、こちらの生活で起こり得るひととおりの経験はしてきたように思います。そんな中で感じた日本との違いについて、今回はいくつかのエピソードを取り上げてお伝えします。

何といっても第1位は(!)、電車やバスがよく止まる、急に行先変更すること。車を持たない我が家にとって、電車やバスは強ーい味方、というよりはなくてはならないもの……なのですが、●●行のバスに乗ったけれど途中で▲▲行に変更というのはよくある話。バスの場合は、何のアナウンスもないまま運行ルートを変更することもありました。

日本で同じことが起きたら、もう騒然!ですよね。ですが、こちらでは乗客の皆さん、動揺することもなく、バスの運転手や駅員に文句を言うこともなく、粛々と次の交通手段を探して歩き始めます。「えー、それでいいの!?」と乗客の態度にも戸惑いましたが、何度同じ経験をしても、やはり騒ぎ出したり、イライラしたり、暴れ出したりする人を見たことはありません。最近は娘も私も慣れてきて、日本にいたころよりもかなりのんきになりました。

2番目は、家の設備などの修理業者のかたが約束の日時に来ないこと。家の設備も日本のものよりもろく、よくいろいろなところが故障するのですが(これも問題ですが)、その修理業者のかたが約束した時間……どころか約束した日に来ない! こんなこと、うちだけ?と思っていましたが、日本人の友達に聞いても、イギリス人に聞いても皆、経験済み。ボイラーが故障したとき、修理業者のかたが来ないことが2度続いた時には、私が夫から叱られる始末。夫いわく「あらゆる手を使ってプッシュだ!」とのこと。私からだけではなく、大家さんからもしつこく確認を入れてもらい、三度目の正直でやっと来ましたが。

3番目は、日曜日のお店の営業時間の短さ。日本なら学校や仕事がお休みの人が多い日曜日はお店にとって書き入れ時。しかし、こちらでは多くのお店がお休み。大きなお店などは日曜日も開いていますが、それでもお昼少し前に開店して夕方4時には閉店という場合もあります。レストランすら日曜日は早じまいするところが多いのです。ロンドンに来て間もないころ、家族で日曜日に遠出して、夕方遅めにいつものスーパーに寄ったら、もう閉まっていたということもありました。

なんだか、日本と比べてロンドンの不便なところだけ並べたてましたが、確かに不便なのですが、私が感じているのはそれだけではないのです。「違い」の後ろにある、こちらの人の考え方や生活スタイルに目を向けると、納得する部分もあるのです。

たとえば、日曜日のお店の営業時間の短さ。イギリスでは、日曜日は朝から仕込んだお肉をオーブンで焼いて午後に家族全員でゆっくり食事する「サンデーロースト」という習慣があります。午前中は教会の礼拝、午後は時間をかけて食事というように、日曜日は家族でゆっくり過ごす日なのですね。だから、お店もお休みや営業時間が短いのです。

電車やバスの突然の行先変更についても、電車やバスはそういうことが起こるものということが既に乗客の常識(?)だから耐えられるように思います。ただ、常識だから、というだけではなく、「Keep calm and carry on.(冷静さを保ち、いつもどおりに続けよう、というような意味)」というイギリス人が好むフレーズに、心構えの違いもあるのかなと最近感じるようになりました。見習いたいところです。

そうやって考えると、修理業者のかたが約束の日時に来ないことも、決められた仕事の時間内でできる分だけやればいいという常識の人が多い国もあるんだと割り切るしかない……最近、かなりポジティブシンキングになりました。

ロンドンは、日本人にとっては比較的、暮らしやすい場所だと感じますが、たくさんのカルチャーギャップがあるのも事実です。それを自分や自分の国の「常識」を物差しにして考えると腹立たしくもなるのですが、その国、その人の「常識」との「違い」と考えると少しは楽になります。ただ、対処の仕方を覚えないと、いつまでも問題が解決しない場合もあるので、解決するための知恵を周りの人から教えてもらうことも大切だと思います。

いろいろありますが、今のところ私はロンドンが大好きです。そう思うようになったエピソードを紹介します。雨の日に自宅近くの横断歩道で信号待ちをしようと歩いていたところ、先に信号待ちをしていたおじいさんから「こっちに来るな、もっと手前で待て」と言われました。「何でかな?」と思っていたら、路肩にたくさんたまった泥水を大きなトラックやバスが歩道いっぱいに思いきり跳ね上げていきます。よく見ると、おじいさんは、真っ白なスーツが泥水でびしょびしょ。先に待っていて跳ね上げた泥水をかぶってしまったので、あとから来る人たちにそれを教えてくれていたのでした。「大丈夫ですか?」と聞いたら「うちは近いからすぐ帰れるし、泥水のおかげで素敵な柄のスーツになったよ」と冗談交じりに答えながら立ち去って行きました。

ほかにも、道を歩いていて困っていると話しかけてくれたり、バス停や駅で隣り合わせると話しかけてくれる人が多かったり、お店でも「Have a lovely day!」と笑顔で挨拶してくれる店員さんも多かったり……気さくで温かい人が多く、過ごしやすい毎日を送ることができているのも、ここロンドンの人たちのおかげと感謝しています。日本に戻って街中で困っている外国人のかたがいたら、私もできるだけ話しかけてみようと思っています。

次回は、ボランティア活動で訪問したイギリスの学校の様子や、教育についてお伝えします。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

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